5.本題
「…なあ」
その疑問を解消するために行人が六人に話しかけた。
「な、何?」
六人を代表する形で咲耶が行人に反応した。
「今の話を聞いてて思ったんだけどよ」
「う、うん」
「君ら、同母姉妹じゃないのか?」
そう。それが行人がどうにも気になったところだった。瀬理が皆に話を促すとき、
『あたしのところはこんな感じだけど、皆のところは?』
と言っていた。一つ屋根の下でずっと暮らしていれば、そんな言葉は出てこないはずである。何故なら同じ家に暮らしているのだから。なのに、そういう表現が出てきたということは即ち、そういうことなんだろうかと行人は思っていた。
「どう…ぼ…?」
「何? それ?」
茅乃と宮乃が首を傾げる。まだ小学二年生の彼女たちにはわからない言葉だったようだ。
「ああ、悪い。じゃあ言い直す。君らの母親は全員同じ人なのか?」
「ううん」
「違うよ」
行人が言い直してようやくわかったのか、茅乃と宮乃がフルフルと首を左右に振った。そのまま行人は残る四人…咲耶、瀬理、鳴美、三穂にも顔を向ける。
「今、茅乃ちゃんと宮乃ちゃんが言った通りです」
答えたのは三穂だった。
「私たち、全員腹違いなんです」
「そっか…」
その回答を得て、行人が頷いた。
(考えてみりゃわかることか)
「あの親父が、一人の人相手に何人も産ませるわけないもんな」
『……』
何気なく言った一言だったが、まだよく事情を理解していない末の双子を除いた四人が複雑な表情になって俯いてしまった。
「しかし…どんだけ外で他の家庭作ってるかと思ったら…」
まさか、他に五つも家庭があるとは行人も思わなかった。しかも、これで打ち止めとは限らないのだ。もしかしたら自分が知らないだけで他にもあるかもしれない。それを考えると背筋が寒くなるのと同時に、怒りも沸々と湧いてくるのだった。
(あの無責任男…いや、好色一代男か?)
両方か、と、どうでもいいことを考えた。そう、行人にとって父親のことなどもうどうでもいいのだ。寧ろ、頭の隅に置いておくのも拒否反応を起こすほど忌むべき存在と言ってよかったからだ。
(さて、それじゃあ…)
ここからが最重要事項だ、と、内心で気合を入れ直す。疲れた身体に鞭打って、行人は最重要事項を処理するために口を開いた。
「んじゃ、こっから本題」
その言葉に、六人が行人に視線を向ける。驚いたことに、最年少の茅乃と宮乃も顔を行人に向けていた。…もっとも、もうお菓子がなくなったということもあるのだが。
「最初、この家の前で君ら六人で俺に挨拶したとき、聞き逃せない言葉を聞いたんだけど、『宜しくお願いします』ってのはどういう意味だ?」
「それは…」
言い出しにくいのか、全員がチラチラとお互いを見ながらどうしよう…といった表情になっている。
(『宜しくお願いします』っていうのが言葉通りの意味なら、まあ言い出せねえよな。けど、こっちも生憎暇じゃないんでね)
無理にでも聞き出そうかと思ったところで、
「いいですよ、私が言います」
一人が口を開いた。その声の主は三穂だった。
「三穂ちゃん…」
咲耶が心苦しそうな表情で三穂を見つめる。が、三穂は特に気にした様子もなく、気にするなとばかりにヒラヒラと手を振った。
「毎度毎度咲耶ちゃんばっかりにやらせるわけにはいかないですから」
そう言うと、お茶に軽く一口付けて三穂は行人をジッと見た。
(歳はこん中じゃ若い方だけど、こん中で一番精神年齢が大人なのはこの子なのかもな)
ジッと見つめ返しながら、行人は三穂が口を開くのを待った。
「…もう、薄々気づいてると思いますけど」
程なく、三穂が口を開いた。
「私たち、お兄ちゃんのお世話になりに来ました」
「そうか…」
(予想通りの回答だな)
自分の勘が当たっていることを認識した行人が頬杖を着いて改めて三穂に視線を向ける。
「お世話になりに来たってのはあれか? 一緒に暮らすってことか?」
「ええ」
「つまり、俺に君らを養えと」
「はい」
「は」
そこで、行人は楽しそうに笑った。その表情に、三穂を除く五人はホッと胸を撫で下ろしたのだが、
「ふざけろ」
瞬時に表情を変えるとそう吐き捨てて、行人は頬杖を着いていた手をテーブルに思いっきり叩きつけたのだった。そして、これまた三穂を除く全員が恐怖にビクッと身体を震わせる。