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HSP  作者: 草薙 鏡二
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3.六人義妹

「どうぞ…」

「あ、ありがとうございます…」


出された温かいココアを前にして一番年上と思われる子が恐縮気味に頭を下げた。その横で、


「あー、温かくて美味い…」

「こういうの、冷えた身体には沁みるよね…」

「あ、あの、おかわり、ありますか…?」


さっそく手を付けた他の女の子たちが好き勝手なことを言っていた。


「ああ、うん…」


行人がカップを回収すると、おかわりを淹れに一旦台所へ戻る。そして、


「袋菓子で悪いけど…」


カップと一緒に、家にあったポテトチップやチョコレートなどの袋菓子をいくつか持ってきたのだった。


「わ! お菓子♪」

「頂戴! 頂戴!」


おかわりを頼んだ子…確か鳴美と瀬理が言っていた子にココアを渡すと、行人はお菓子をせがんだ双子の茅乃と宮乃にそれを渡した。茅乃と宮乃は嬉しそうにそれを受け取ると、袋を開けてさっそく食べ始めた。


「いいなー。あたしにも少しくれよ」


先ほど茅乃と宮乃相手に言い争っていた瀬理が手を伸ばす。


「や!」

「ダメ!」


茅乃と宮乃はそれを慌てて遠ざける。


「何だよ、ケチ!」


むくれる瀬理。


「茅乃ちゃん、宮乃ちゃん」


そんな三人を見ていた、さっきのポニーテールの子が、口を挟んだ。


「そんな意地悪言っちゃダメですよ」

「えー…」

「だってさぁ、三穂ちゃん…」


先ほどの瀬理と同じく、不満気に茅乃と宮乃がむくれた。そんな二人を諭すようにポニーテールの子…どうやら、三穂という名前のようだ…が、言葉を続ける。


「そういう意地悪な子は、お兄ちゃん嫌いかもしれないですよ?」

『!』


それを聞いた茅乃と宮乃はビクッと身体を震わせると、慌ててお菓子を瀬理に差し出した。


「サンキュー♪」


一転して破顔した瀬理がそれをポリポリと食べ始めた。そうしながら、三穂にウインクする。と、それに応えるように三穂も瀬理にウインクした。


「ふふふ…」


四人のその姿を見ていた一番年上と思われる子が口元を押さえると小さく笑った。鳴美も声こそ上げなかったものの、穏やかな表情でニコニコしている。


「……」


そんな目の前の六人を見ながら、行人も自分用に用意したお茶を飲んでいた。もうとっくにおわかりだと思うが、六人…行人を含めれば七人は場所を室内…行人の自宅の中に移していた。

先ほどの突然の告白の後、詳しい説明をしたいからといって一番年上の子を先頭に、六人は半ば強引に家の中に入ってきたのである。

一応、抵抗した行人ではあったが、相手が子供とはいえ六人いたことと、女の子相手に本気になれないということもあって、あれよあれよと家の中に侵入を許したわけである。

何が物珍しいのか、少しの間キョロキョロと行人の家の中を見回していた六人だったが、やがて一番年上の子に促されて居間に固まって立っていた。それでも暫くの間遠慮会釈なくジロジロ室内を見渡していたが、初対面なのに流石にあまりに失礼過ぎたと思ったのだろう、あるいはこれ以上心証を悪くするのはまずいと思ったからか、行人に促されるまで座ろうとはしなかった。

六人が家の中を好き勝手に見ている間、行人は彼女たちのためにお茶の用意をしていた。本来、そこまでしてやる義理はないのだろうが、何人かが寒さに身体を震わせている姿を見てしまった以上、どうにも放っておけなかったのだ。それに、どれぐらいの長さの話になるかわからないが、話を聞かせてもらう以上は茶の一杯ぐらい振舞うのは最低限の礼儀だと思い、行人はお湯を沸かしたのであった。


「……」


ぼーっと火にかけられた薬缶を眺めながら、行人は後ろで騒がしい六人の顔を思い浮かべていた。そしてその次に浮かんできた人物は…


(親父…)


碌な思い出のない、しかし十中八九今回のこの騒動の原因に違いない父の姿だった。やがて、お茶の用意ができた行人は人数分のお茶をもって居間に戻り、突っ立っていた六人に座るように促すと、彼女たちの前にお茶を振舞ったのである。それがついさっきのことだった。


「で…」


自分用に用意したお茶を一飲みすると、行人は口を開いた。六人のうち、お菓子に夢中な双子の茅乃と宮乃以外の四人が行人に顔を向ける。


「そろそろ聞かせてもらおうかな?」

「あ、はい。そうですよね…」


さっき、衝撃の告白をしてきた子が口を開いた。どうやらやはりこの子が最年長らしく、説明役は彼女がするようだ。

コホンと軽く咳ばらいをし、スーハースーハーと数回深呼吸を繰り返した後、徐に彼女は口を開き始めた。


「あの、先ほども言いましたけど、私たちは皆、行人さんの妹なんです」

「うん」


行人が頷く。


「え、えっと、まず軽く自己紹介しますね。私は咲耶って言います。この中では最年長で十四歳です」

「十四…中二?」

「はい」


彼女…咲耶が頷いた。


(中二だけど、俗に言う中二病って訳でもなさそうだな。ただ単に偶然中二ってだけか…)


本人が聞いたら怒髪天を突きそうなことを思いつつお茶を飲み、行人はひとまず彼女の自己紹介に耳を傾けることにした。


「年齢順に紹介しますね。この子が二番目の瀬理。十三歳の中一です」

「どうも、はじめまして」


瀬理がペコッと頭を下げた。さっき、双子の茅乃と宮乃と言い争っていたときは少々口が悪かったが、今は普通の感じである。恐らく、こちらが彼女の地なのであろう。


「で、十一歳、小五の鳴美と」

「こ、こんにちは」

「十歳、小四の三穂」

「……」


オドオドしながら瀬理と同じようにペコッとお辞儀をする鳴美。それとは対照的に、三穂は無言でゆっくりと会釈した。


(…何か、対照的な二人だな)


そう思う。年齢的に一つしか違わないからだろうか、姉と妹が逆でも全く違和感がなかった。


「最後がそこの双子の二人、茅乃と宮乃。小二の八歳です」

「はーい!」

「はーい!」


元気よく手を挙げた二人だったが、すぐにまたお菓子に夢中になっていた。小さい子が大人しいという意味では、話し合うには好都合かもしれないが。


「い、以上です」


名前だけの、本当に簡素な自己紹介を終えると一番年上の彼女…咲耶が行人に振り返った。

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