25.選択
「多少の時期の前後はあったとはいえ、揃いも揃ってお前たちの母親が姿を消した。事故・病死・蒸発と、その理由は様々だが。そしてその後は、お決まりのパターンといえばお決まりのパターンの親戚中をたらい回しで、それに耐えられなくなったってわけだ」
「止めて!」
大声を出したのは意外にも六人の中で一番そういうことから縁遠い感じに見受けられた鳴美だった。鳴美はそのことを拒絶するかのように顔を蒼ざめながら俯いた。良く見ればその身体も小刻みに震えている。
しかし、それは大なり小なり他の義妹たちもそうだった。皆一様に表情の暗さが増したり、小刻みに震えていたり、泣き出したり、唇をギリッと噛んでいたりしている。
(かなりのトラウマみたいだな)
六人の反応は行人をそう思わせるのに十分のものだった。
(どうにも…余程酷い扱いだったみたいだな)
続けてそう推察する。でなければ押し掛け女房宜しく、家出同然で会ったこともない兄貴のところになど来ないだろう。第一、受け入れてくれる保証などどこにもないのに、だ。…と言うより、ほぼ間違いなく門前払いを喰らわされるに決まっている。
にもかかわらずこんな無謀な真似をしたのは、逆に言えばそこまで追い詰められているということを表している何よりの証左でもあった。
「…ここで」
再び口を開いた行人に、咲耶たちの視線が再度集まる。
「ここで俺がお前らを拒絶したら、お前らはまたそれぞれの厄介になっている親戚の家に逆戻りって訳か」
『!』
また六人の表情が暗くなった。それと同時に、
「や、やだぁ…」
この部屋に入ってきて一番最初に行人の脚に抱き着いてきた茅乃と宮乃が、また泣き出してしまった。
「帰りたくないよぅ…」
二人は泣きながらお互いの身体を抱きしめあった。よく見るとその身体は震えており、お互いがその震えを抑えるかのように抱きしめあっていた。
「茅乃ちゃん、宮乃ちゃん」
「大丈夫だから、ね?」
二人を落ち着かせるために三穂と鳴美がその側へと向かった。そんな四人を、行人、清香、咲耶、瀬理の四人が、何とも言えない表情で見つめていた。
「…よっぽどか」
空気に耐えられなくなった行人が思わず呟いていた。
「え?」
思わず咲耶が振り返り、瀬理も咲耶に追随するかのように振り返った。
「…よっぽど、碌でもない目に遭わされてるのか」
「うん…」
咲耶が頷いた。
「程度の差は多少あるけど、皆厄介者、邪魔者扱いだからね。どんな目に遭ってるか、大体わかるでしょう?」
「……」
行人が沈黙する。確かに想像に難くないことだからだ。
(まあ、可愛がられてるとまではいかなくとも、普通に扱われてるんだったら良かったんだが、この様子じゃあそれを期待するだけ無駄ってもんか)
居心地悪そうな表情になって行人がポリポリと頬を掻いた。と、
「行人くん」
それまで黙って成り行きを見ていた清香がここに来て初めて口を挟んだ。
「はい?」
「そろそろ…いいんじゃない?」
『……』
その一言に、行人だけではなく六人の義妹たちの視線も清香に集中する。それが何を意味しているのかは、皆がわかっていることだからだ。
「そうですね…」
そして、続いて吐き出した行人の一言に、義妹たちの視線が今度は行人に集中した。なるべく見ないようにしていたのだが、チラッと目に入った彼女たちの表情は、誰も彼も不安で押し潰されそうなものだった。
彼女たちのその表情を頭から振り払いながら、行人はここに来る前に清香が自宅で自分に言ってくれたことを思い出す。
(受け入れるにしても否定するにしても、義妹ちゃんたちの事情を知ってからにしなさいってこと…か)
それを知り、そして決断を迫られる。切るか、拾うか。
(ドラフトで指名された時でも、こんなに緊張はしなかったな)
あれとはまた違う、嫌な緊張感だけどな。そんなことを思いながら目の前を手で覆い、義妹たちに気付かれないように指の隙間から彼女たちの顔を見る。
咲耶、瀬理、鳴美、三穂、茅乃、宮乃…それぞれが不安に押し潰されそうな表情で自分を見ていることがわかった。それでも、彼女たちを養う義務は行人にはない。少なくとも、法律上は、だ。であれば、行人は答えを決めた。
「俺は…」