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HSP  作者: 草薙 鏡二
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2.君たちだあれ?

「は、はいっ!」

「ひゃっ!」

「うわっ!」


女の子たちはそれぞれ個性的に驚き、その後、声をかけた人物、行人に振り返った。


(う…)


子供といっても、六人の女の子からいっぺんに視線を向けられたことなどない行人が内心でたじろぐ。が、ここで終わりではない。寧ろここからである。


「あの…家に何か用?」


意を決して行人が尋ねると、六人の顔がホッとしたような輝いたような表情になった。


「あの…」


六人の中で、一番年上だと思われる女の子がおずおずと前に進み出て口を開く。


「黒木…行人さんですか?」

「そうだけど…」


行人が探るような感じで答えた。と、


「わー♪」

「捕まえた♪」


後ろの方にいた二人の女の子が急に抱き着いてきた。もっとも、彼女たちはこの中で一番小さいため、抱き着くといっても脚にだが。


「えっ!?」


いきなり見知らぬ女の子に抱き着かれて行人は驚く。それは文字通り、いきなり見ず知らずの女の子に抱き着かれたことともう一つ。彼女たちの表情にあった。この子たちは、実に嬉しそうに行人に抱き着いたのだ。その表情には安心したような様子も見て取れる。

だが、行人にとっては彼女たちは初対面なのである。無論、彼女たちだけでなく、目の前にいる他の四人の子もそうなのだが。だから、こんな表情を向けられる理由がわからなかった。


「……」


どうしたらいいものかといった表情で行人が困っていた。すると、


「ダメだよ、茅乃ちゃん、宮乃ちゃん」


彼女たちの中で年長者の部類に入る子がそう言って、行人の脚に抱き着いている二人の子を窘める。


(この子たちは、茅乃と宮乃っていうのか…)


そんな、ある種どうでもいいことを考えながら行人は足元の二人を見つめた。


「えー…」

「だってー…」


二人…茅乃と宮乃が行人の脚に抱き着いたまま顔だけ振り返って不満そうな声を上げた。今気づいたのだが、この二人は双子なのだろう。顔立ちから髪形、背格好まで瓜二つだった。


「気持ちはわかるけどね…」


茅乃と宮乃を窘めた女の子が少し屈むと、諭すように語り掛ける。


「そんな状態じゃ、行人さんとお話しできないでしょ? いつまでもそうしてたいの?」

「うー…」

「わかったー…」


不承不承といった感じではあるが頷くと双子の姉妹、茅乃と宮乃は行人の脚を放した。


「よし! いい子だ!」


不意に、また新しい子が前に出てくると二人の頭をガシガシと撫でた。少し色が黒めでボーイッシュな、まさにスポーツ少女という形容にふさわしい子だった。


「や!」

「もー」


茅乃と宮乃は不満そうにその手を払う。


「止めてよね、瀬理ちゃん!」

「そーだよ! 髪がグチャグチャになっちゃったじゃない!」

「はは、悪い悪い!」


双子の茅乃と宮乃に文句を言われた、瀬理という女の子が快活に笑いながらも二人の肩をバシバシと叩いた。だが、加減がないようで叩かれた茅乃と宮乃の表情が痛そうに歪んだ。


「痛い! 痛いってば!」

「ちょっとは加減してよ、この馬鹿力!」

「ば、ば、馬鹿力ぁ!?」


馬鹿力呼ばわりに、ボーイッシュな彼女、瀬理の動きが思わず止まった。


「お、お前、乙女に馬鹿力はないだろ!?」

「馬鹿力は馬鹿力だよ! ホントのこと言って何が悪いの!?」

「そーだ、馬鹿力!」

「お、お、お前らぁ…」


わなわなと震える瀬理が茅乃と宮乃に詰め寄ろうとした。が、


「はい、そこまで」


六人の中で唯一眼鏡をかけた女の子が瀬理の肩を掴んで彼女を制した。


「止めるな鳴美! こいつらにちょっと長幼の序ってもんを教え込んでやる!」


振り返ると、鼻息荒く自分を制した、鳴美という名前のその眼鏡の子に瀬理がそう訴えた。その間に茅乃と宮乃は行人の後ろに回り込み、その陰から舌を出したり暴力はんたーい! などと叫んでいる。


「あっ! テメ!」


安全な場所に隠れた茅乃と宮乃に瀬理は青筋を立てそうなほど怒っていたが、


「まあまあ」


鳴美が瀬理を落ち着かせるためだろうか、それともこれが彼女の地なのかはわからないが、ほんわかした口調で瀬理を宥めていた。


「鳴美ぃ!」

「瀬理ちゃん、気持ちはわかるけど、ちょっと大人げないよ?」

「だってさぁ…」


それでも納得いかないのか、不満気な表情を見せる瀬理。そんな彼女をよしよしと宥める鳴美。その間も、茅乃と宮乃は行人の後ろで好き勝手な発言をしていた。


(…なんだ、これ?)


そんな中、状況についていけず、置き去りにされた行人がどこか遠い目で彼女たちを見ていた。まあ、何が何だかわからず、今のところ彼女たちが内輪で盛り上がっているだけにしか見えないのだから当然だろう。

そんな中、


「皆しょうがないですねえ」


また、違う女の子が進み出てきた。ポニーテールに髪をまとめ、この六人の中では幼いほうに入るが、どことなく大人びているような雰囲気を感じる。


「まあ、はしゃぐ気持ちもわかりますけどね。ね?」


女の子は行人の隣に並ぶと頭の後ろで腕を組んで行人を見上げ、同意を求めるかのように行人に尋ねてきた。


「いや…」


何と返事していいのかわからず、行人が口ごもる。


(そもそも、俺は置き去りにされているのに、どう答えろと?)


それが、行人の偽らざる気持ちだった。


「はい皆、そこまで」


そこで、最初に行人に話しかけてきた、恐らくこの女の子たちの中で一番年上と思われる女の子がパンパンと手を叩いた。女の子たち全員の視線が彼女に集まる。


「色々とあるのはわかるけど、ちょっと落ち着こ? 行人さんが呆然としてるよ」


そう言われて、先ほど行人の隣に来てその顔を見上げたポニーテルの子以外の四人が慌てて行人に視線を向ける。確かに彼女の言う通り、行人は持て余し気味の様子で彼女たちを見ていた。


「あちゃあ…」

「あっ…」

「えっと…えっと…」

「あのね! あのね!」


四人がバツの悪そうな顔で行人を見ている。とはいえ、行人は置き去りにされているので別にどうとも思っていない。が、訳の分からない騒動に巻き込まれたおかげで確実に疲労がたまっていた。


(疲れた…)


ドラフト後のバタバタや、自主練習の疲れもあり、行人はできる限り早く休みたかった。そのため、少し憮然とした口調になる。


「用がないなら帰ってくれるかな? 後、バカ騒ぎしたいなら他所でやってくれる?」


それだけ言い残し、行人は彼女たちを置き去りにして家に入ろうとする。


「待ってください!」


その足を止めたのは、先ほど他の女の子たちを止めたあの女の子だった。


「…何?」


行人はわざとらしく、いかにも迷惑ですという雰囲気を醸し出しながらため息をつくと彼女に振り返った。そんな行人の内心を察したのか、六人はオドオドした様子になってご機嫌を窺うように行人を見つめる。


(しまった…)


確かに多少ムッとしていたとはいえ、少し大人げなさ過ぎたかと思った行人だったがやってしまったものは仕方ない。呼び止めた彼女が続きを言うのを待った。


「あ、あの、私たち行人さんに大事なお話があって…」

「うん」


行人が頷いた。が、そこから先が中々話が進まない。言いたいのだが踏ん切りがつかないという感じの逡巡している様子が手に取るように窺えた。周りの、年長者の部類に入る残り二人も同じ様子で、何かを言いたくても言えない雰囲気を醸し出している。年少の三人は、年長の三人にお任せといった感じだった。


(…あー、早く休みたい)


そんな様子の彼女たちを見ながら行人は素直にそう思っていた。そして、もう無視して家に入ろうかと思ったとき、


「あの!」


遂に意を決したのか、一番年上と思われる女の子が口を開いた。


「う、うん」


その雰囲気に、思わず気圧されてどもる行人。そんな行人に彼女が告げたのは、とんでもない一言だった。


「わ、私たち、貴方の妹です!」

「…は?」


思わず絶句する。が、女の子たちはそんな様子の行人に構わず(もしかしたら、行人がどういう様子なのかわからないほどテンパっていたのかもしれないが)、声を揃えて更にとんでもないダメを押した。


『宜しくお願いします、お兄ちゃん!』


そして、六人そろって深々と頭を下げたのだった。一方で、思いもよらぬ告白を受けた行人はというと…


(…こういうのが、『事実は小説より奇なり』ってやつなのかね)


十二の、自分を見つめている眼差しを前に現実逃避的にそう思い、


(…何だ、これ?)


そして、その感想しか出てこなかったのだった。

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