10.着いた先は
「着いたぞ」
家を出てからしばらく歩き、行人が目的地に着いたことを伝える。
「着いた…って」
瀬理がその場所を見て、何とも言えない表情になる。それは、咲耶、鳴美、三穂の三人もそうだった。唯一違うのが
「駅ーっ!」
「ねえねえ、どこかにお出かけするの?」
元気一杯に答えた茅乃と宮乃だった。そう、二人が言ったように行人と六人は、行人の家の最寄りのJRの駅にいたのである。そしてこの場所についたことで、はしゃぐ茅乃と宮乃以外の四人は心なしか表情を暗くした。
「いや、見送りにきた」
それは、行人のこの一言で決定的になった。
「え?」
「見送りって…誰を?」
茅乃と宮乃がきょとんとした表情で行人を見上げる。
「お前たちを、だ」
「誰が?」
「俺がだよ」
「え…そ、それって」
ここに至ってようやく茅乃と宮乃も状況を理解したのか、さーっと顔を青ざめる。
「昨日、帰れって言ったよな?」
そして、それを決定づける一言を行人が続けたのだった。
「言う通りにしててくれりゃあ、こっちもこんな真似しなくて済んだんだけどよ。残念ながら大人しく言うことを聞いてくれなかったんで、こういう「ヤダっ!」」
全て言い終わる前に茅乃が声を上げた。そして、宮乃が行人の脚に縋りつく。
「帰らないもん! 絶対!」
「わがまま言ってんじゃねえよ…」
心底疲れたという感じになって行人が溜め息をついた。
「だったら、あっちに行ってもいいんだぜ?」
「あっちって…」
行人が振り返った方向に鳴美が首を向ける。そこには、警察署があった。
『!』
六人の顔が凍りつく。
「家出少女として引き取ってもらうか?」
「や、ヤダっ!」
茅乃も宮乃と同じように行人の脚に縋りついた。そして、二人とも泣きそうな顔になって行人を見上げる。
(……)
正直、その表情に思うところがないわけでもなかったし、ぐらっと来たのは事実だった。だが、だからと言って折れるわけにもいかないのだ。だから、
「…なあ、おい」
少々強引な手段に出ざるを得なかった。行人は二人の頭に手を置くと、強引に上を向かせた。
「何でも自分の思い通りになると思ったら大間違いだぞ?」
「う…」
「だ、だって…」
雰囲気の変わった行人に、茅乃と宮乃は涙ぐむ。
「それと、泣けばどうにかなるってのも大間違いだ。お前たちが張り付いて離さないんなら、ある意味好都合だ。このまま警察へ行くか」
そして、そのまま強引に警察署へ向かって歩き出した。
『ヒッ!』
警察署へ向かうのがわかった茅乃と宮乃が慌てて行人の足から離れた。
「…帰れ」
自分から離れたのを確認した行人が、茅乃と宮乃にこれまで一度も発したことのないような冷たい話し方でそう伝える。だが、
「い、イヤだもん!」
茅乃がそう宣言し、
「絶対帰らないんだから!」
宮乃がそう続けた。そして、
『お兄ちゃんのバカーっ!』
泣きながら精一杯の悪態をつくと、二人一緒にどこかへ走り去っていったのだった。