四
燥耶からその言葉が発せられた時、沙枝は意外にも余り驚かなかった。心のどこかで、燥耶はそう言うんじゃないかと予想していたようだ。長く考えることもなく、沙枝は答える。
「私は。燥耶にどこまでも着いていくって決めてるの。だから、燥耶が戦うなら私も戦う。」
沙枝もここで一息置く。
「でも燥耶、これだけは約束して。」
燥耶の瞳をはっきりと見据える。
「もう二度と、私の前からいなくならないで。燥耶が危ない目に合いそうだったら、私は全力で止める。…またこんなことがあったら、私、耐えられない。」
二人は真剣な目で見つめ合う。やがて、静かに燥耶が頷いた。
「分かった。約束する。
ずっと、側にいるよ。」
急に燥耶がそんな言い方をしたものだから、沙枝は真っ赤になってしまった。でも、目は逸らさない。沙枝の脳裏に、スリナのムラで雪に言った言葉が蘇った。
『燥耶に会ったら、ちゃんと伝えるんだ。あなたのことが、大好きです。って。』
急に心臓の音が大きく聞こえる。目の前がぐるぐるしてきた。まだ言ってない。言わなきゃ、私。あんなに自信満々だったのに。なんて、なんて言えばいいんだろう?
「ね、ねえ…、私、あ、あなたの、ことが…、」
「おーい、燥耶、いる?」
急に聞こえた響夜の声に、はっと冷静になってしまう沙枝。
「~~~~~~!!!!」
顔どころか全身が真っ赤になったことを感じた沙枝は、その場にいられなくなって思わず走り去ってしまった。
「あ、おい!沙枝!」
燥耶のその声にも、沙枝は恥ずかしさが飽和していてとても振り返ることができない。穴があったら入りたい気分だった。
「あれ?今走って行っちゃったのは沙枝だろう?何か話してた?」
「ああ、まあ…。ところで響夜。」
「ん?なんだい?」
「さっきまですごく視線を感じていたんだけど…。」
「そ、そうかい?さあ、なんだろうなあ?獣かなんかじゃない?僕も時々感じることがあるよ!」
「ふーん、そっか…。まあ、響夜がそう言うならそうかなぁ。」
「そうそう!きっとそうだよ!」
燥耶の元に戻ることができたのはかなり時間が経ってから。それでも、なんとなく顔の赤さが残っているのがまた恥ずかしかった。
「お帰り、沙枝。……。ええと、何を言おうとしてたのかは聞かないでおくよ。…それで、改めてこれからどうする?戦うって決めたけど、具体的にどうするかは俺も決めてないんだ。」
「う、うん…。あのさ、私達何で夜継のために戦うことにしたか、燥耶は覚えてる?」
「いや…。恥ずかしいんだけど、俺は夜継…”様”はつけなくていいか。夜継の前に出ると…。」
「燥耶…。」
「…恐怖で何も考えられなくなってしまうっていうかさ。ほんと、かっこ悪いよ。沙枝の方が、よっぽど強い。」
「そんな、自分のことをそんなに卑下しなくていいよ。燥耶ならしょうがないって。わたしは、さ。ある意味、人質を取られた訳じゃない?夜継に。」
「…そうか。そうだったな。」
咲と幸。沙枝にとってかけがえのない二人の顔が、思い出された。




