表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎花流水  作者: くまくま33233
間弐 治癒
95/159

すみません、遅くなりました。

気付いたらこんな時間でした…。

「《炎花の遣い手》って知ってるか、響夜?」

「ああ…なんとなく聞いたことがあるけど。どうして急に?…まさか…。」

「そのまさかさ。俺が今の、《炎花の遣い手》なんだ。」

「そうだったのか…。」

「と言っても、俺が《遣い手》として何をやらなきゃいけないのか、まだ分かっていなくて。中途半端に力だけ持っている自分はクナイの王、夜継に目を付けられたんだ。それで戦に駆り出されてさ。」

「でも燥耶、君は《遣い手》なんだろ?なのに何故…?」

「俺は過去、夜継の力に逆らえず両親をこの手で殺したんだ。そのことがずっとトラウマになっていてね。それを刺激されたってとこかな。気付いたら何の力も持たない子供に、戦場のただ中で刺されてたよ。」

「…ん?じゃあ何で君はここにいたんだ?あの血のおびただしい流し方からいって、這ってきたならその跡が残るはずだけど…。」

「それは。」


 ここで燥耶は一瞬、言葉に詰まる。傷の手当てをし、看病してくれたのは目の前の響夜。しかし、そもそも根本的に、ここへ連れてきてくれたのは。あの場にそのままいたら確実に今生きていなかったはずの命を、繋いでくれたのは。今や懐かしい笑顔が脳裏に浮かんだ。


「《炎花の遣い手》を知ってるってことは、《流水の守り手》のことも知ってるのか?」

「あ、ああ…。」

「そう。その《守り手》に、俺は助けられたんだ。彼女の"力"によって、ね。」

「どういうこと?その子がここまで君を運んできたのかい?」

「まあ、そうなるかな。でもきっと、響夜が思ってるのとはちょっと違うと思う。」

「?」

「彼女は、《守り手》としての"力"を発現させ、文字通り俺をここまで"飛ばした"んだ。」


 響夜が息を呑むのが分かった。


「そうだったのか…。…燥耶。ありがとう、話してくれて。」

「…うん。」

「ああ、そうだ。その《守り手》の女の子の名前を聞いてなかったな。何て名前なの?」

「沙枝。」


 その名前を燥耶が呼んだ時、(にわか)に周囲に風が吹いた。




「おーい、響夜!どこだー!」


 その時聞こえたのは、響夜を呼ぶムラの若者の声。


「何か呼ばれてるみたいだ。ちょっと行ってくる。ここで待ってて。」


 響夜はそう言い残すと、燥耶の返事を待たずに駆けていった。




 響夜の背中が見えなくなった頃、燥耶はもう一度、今度は(つぶや)くように、今一番会いたい人の名前を呼んだ。


「沙枝…。」



 さっきより強く、燥耶の周囲を風が舞う。思わず燥耶は、一瞬目を(つむ)った。その真っ暗な一瞬が、その時の燥耶にはとても長く感じられた。

 川の音、流水の音。今までだって聞こえていたその音が、やけに大きくなった気がした。


 その中でも、はっきり聞こえてきたその声は。


「…燥耶。」


 今の燥耶が、一番聞きたかった声だった。


 目を開けて振り向く燥耶。自分でも気付かない内に、その顔は満面の笑みを(たた)えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ