四
前話の後書きにて、誤りがありました。
更新は本日16日(日)でした。混乱を招きましたこと、お詫びいたします。
なお次回以降は通常更新となります。よろしくお願いします。
燥耶の身体は、日を重ねるごとに少しずつ、本当に少しずつ回復していった。一日中横たわっているばかりから、上体が起こせるようになり、今日はあの日以来初めて、他人の助けを借りてではあるが立ち上がることができたのだ。《炎花の遣い手》でも、身体が丈夫になる訳じゃない、回復が速くなる訳じゃない、ということを身に染みて学んだ燥耶。その燥耶を響夜は献身的に看護した。時々やって来る響夜の協力者である若者たちにも支えられ、燥耶は皆に感謝の気持ちでいっぱいであった。
次の日の朝。なんとか壁伝いに厠へ一人で行った燥耶が部屋に戻ってくると、そこには響夜がいた。
「お帰り。どうかな、燥耶。ずっと家にいるのもつまらんだろう?少し歩きに行かないかい?」
「いいね。ありがとう。」
燥耶は響夜に対し敬語を使わなくなっていた。かなり打ち解けた頃に、響夜の方から敬語は止めてくれよと言われたためだ。
「よし。じゃあ僕らのムラを案内してあげるよ。」
響夜に支えられながら外へ出る。家の前から真っ直ぐのびる道の先には、広大なコナギのムラが見えた。家は一軒もなく、ただ一面に畑が広がる光景は、響夜たち燥耶の面倒を見てくれた若者の努力が窺えるものだ。そしてその向こうに見える森林と、頂上から煙を吐き出す見上げるほど高く聳える山。黒い山肌を晒す大きなその山は、堂々とした威風を放つ美しい佇まいだ。
「これが、今のコナギのムラ。家が一軒もないことを除けば、あのこのムラの全てが呑まれてしまった日より前の光景とほぼ同じなんだ。」
「なんて言うか…。美しい。頑張ったんだな。響夜も、みんなも。」
「そう言ってくれて嬉しいよ。やってきたことが少し報われた気がする。」
そのまましばらく二人無言のまま、眼前の光景を眺めていた。懐かしむように。やりきったかのように。見守るかのように。口元に微笑を湛えた二人が再度動き出すまでには、長い時間を要した。
「案内すると言ったものの、あんまり連れていくようなところもないなあ。」
そう言いつつ響夜が連れてきてくれたのは、ムラのそばを流れる川だった。澄んだ水だ。
「なあ燥耶。これまで聞くのを避けていたけど…。」
河原に二人並んで座ったところで、響夜が口を開いた。
「君はクナイにいる里のことを知っているばかりか、この間まで一緒にいたと言っていたな。…燥耶。君は、どこから来た?何故血まみれで河原に倒れていた?…そろそろ、聞かせてくれないか。」
来たか、と燥耶は思った。いつかは聞かれることだと思っていた。ここまで聞かないでいてくれたことに驚いていたくらいだ。
少し沈思する燥耶に何を思ったか、響夜は続ける。
「…ここは、まさしく君が、血まみれで倒れていた場所だった。驚いたよ。瀕死の重傷だったことにも勿論、その深い傷が明らかに刃物による刺傷だったことにね。…無理にとは言わない。ただ…」
「大丈夫。…話すよ。」
響夜の声を遮った燥耶は一度言葉を切り、深く息を吸った。




