三
「それはもしかして、二つ前の冬の出来事ですか…?」
「あ、ああ…。そうだけど…。なんでそれを?」
「いえ…、凄く似た話を聞いたことがあって…。」
「そうか…。ちなみに、誰から聞いたんだい?」
「里っていう女の子からです。」
「里のことを知っているのかい!?」
今度は響夜が目を見開く番だった。
「ええ。この間まで一緒にいましたよ。」
「どこに、今里はどこにいるんだい?」
「クナイのミヤコにある社で巫女修行をしてます。とっても元気ですよ。俺も沢山話をしました。」
「良かった…。元気なんだな…。」
「お知り合いなんですか?」
「うん。僕は元々このムラの隣にあるイシギのムラの出身でね。よくお使いに来ていた里とはよく話していたんだよ。…実は、このムラは里のために復活させたんだ。」
「どういうことですか?」
「里はかつてここにあった旧コナギのムラの唯一の生き残りだった。帰る場所のなくなった彼女が行商と一緒に旅立ったのは、ムラがなくなってから本当にすぐのことだったんだ。どこに行ってしまったのかも、僕たちには分からなかった。でも、里には帰ってくる場所がない。それではあんまりにも辛いだろうってことで、僕が何人かの知り合いと相談して今のコナギのムラを造ったんだ。ここで亡くなったムラの人たちの慰霊も兼ねてね。」
「そうだったんですか。」
「ああ。僕には里が元気にしてるかどうかも分からなかった。嬉しいよ、里の現状を知ることができて。」
「では、もう一度里に会えたら伝えておきますね。帰る場所があるんだよ、って。」
「そうしてくれると嬉しい。」
それから二人は長い時間語り合う。二人の仲はあっという間に深まった。
響夜は燥耶、そして沙枝より二つ年上。この家に普段から暮らしているのは響夜だけであり、今燥耶が寝ている部屋は、響夜に協力する他のムラの人たちがここに来た際に寝泊まりする部屋だそうだ。なお、その協力者というのは、若者ばかりらしい。
「僕が協力を募ったからね。知り合いの伝手ってことで、若者ばかりになるのは仕方のないことさ。」
そう響夜は言っていた。力仕事はけっこうできるけど、いかんせん知恵が足りなくて…。ともぼやいていたが。
「でも、同年代ばかりでわいわい頑張るってのも、結構楽しいなーって。」
その言葉とともに響夜が浮かべた笑みは、とても清々しいものだった。
翌日は響夜も時々部屋に来てくれたため、燥耶は退屈しない時間を過ごすことができた。前日のように多く話をする訳ではなかったのだが、不思議と、長い間知り合いであったかのように、一緒にいて落ち着く時間だった。響夜もそうであってくれていればいいなと思いながら、燥耶は目を瞑った。
ふと目の前に、沙枝の顔が見えた気がした。よく表情が見えた訳ではなかったけれど、沙枝は、もう泣いていない。そう思った。
申し訳ありませんが、次回更新は6/16(日)となります。よろしくお願いします。




