表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎花流水  作者: くまくま33233
間弐 治癒
91/159

 それからはまた一人旅が続いた。でも、沙枝は一人でも寂しいとは思わない。目標が、約束が、沙枝の背中を押していた。

 スリナのムラへ立ち寄る前からやっていたことをただ続ける日々。いつからかそれが当たり前になって、燥耶を探す自分が自然になって、頭がどんどん空っぽになっていった。


 また日が暮れた。燥耶を探し始めてから何日たったかなんてもうわからない。昼間いつもより多く歩いた沙枝は疲れていて、食事もそこそこに眠りにつく。一筋の流星が、夜空を横切った。







 ……………そう、や………………

 沙枝が、俺を呼ぶ声が、聞こえた気がした。

 その声は。悲しみの響きに満ちている。

 まるですぐそこにいるかのように、沙枝の悲しそうな、悲しそうな、顔が浮かぶ。

 沙枝。そんな顔するな。

 そう言ってやりたいのに。俺の喉から、言葉が発せられることはない。

 俺の目の前にいる沙枝は、ゆっくりと振り向きながら遠ざかっていく。

 待ってくれ。俺はまだ、沙枝に何も伝えられていない。あんな顔をしている沙枝に、言葉すらかけてやれていない。

 遠ざかる沙枝。視界が白くぼやけていく。

 待て。待ってくれ。沙枝…!




「………さ、え」


 自分の喉から出たとは思えないかすれた声で目を覚ます。

 ここはどこだ?

 意識がはっきりとしない。一度目が覚めたことがあったような気がするが…?

 不意に、強い頭の痛みが燥耶を襲う。と同時に、燥耶は今までのことを一気に思い出した。思わず周囲を凄い勢いで確認しようとして、胸元の痛みに顔をしかめる。


「ぐあっ……。」


 思わず声まで出してしまった。そのままもう一度横たわる。知らない天井、知らない布団、知らない場所。胸元の痛みに耐えつつ必死で頭を働かせる。どういうことだ。戦は、どうなったのか。

 そして、沙枝は。


「お、とうとうお目覚めかい。」


 考えにふける燥耶の前に、そう声をかけつつ現れたのは、一人の青年。


「一時はどうなることやらと思ったんだけど。助かって何よりだね。」


 そう言って優しげに微笑む青年は、思わず燥耶が言葉に詰まるほど、整った顔立ちをしていた。


「…なにが、おこったんですか。おれは、どうして、ここに。」


 声の発し方を忘れてしまったかのように、かすれた声しか出せない燥耶。


「ごめんな、何が起こったのかは僕にもわからないんだ。僕は、君が川縁(かわべり)に血まみれで倒れているのを見つけて、連れ帰って看病しただけだよ。いや、君の状態はひどいものだったんだ。胸に大きな刺傷。あとほんの少しでも位置がずれていたら助からなかったと思うよ。」

「…ありがとう、ございます。おかげで、たすかりました。」

「本当に良かったよ。まあ、まだ全然完治には程遠いから、しっかりゆっくり休んで、早く治しちゃおうな。」

「はい。」


 青年の優しさが胸に染みる。とても、ありがたいと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ