一
それからはまた一人旅が続いた。でも、沙枝は一人でも寂しいとは思わない。目標が、約束が、沙枝の背中を押していた。
スリナのムラへ立ち寄る前からやっていたことをただ続ける日々。いつからかそれが当たり前になって、燥耶を探す自分が自然になって、頭がどんどん空っぽになっていった。
また日が暮れた。燥耶を探し始めてから何日たったかなんてもうわからない。昼間いつもより多く歩いた沙枝は疲れていて、食事もそこそこに眠りにつく。一筋の流星が、夜空を横切った。
……………そう、や………………
沙枝が、俺を呼ぶ声が、聞こえた気がした。
その声は。悲しみの響きに満ちている。
まるですぐそこにいるかのように、沙枝の悲しそうな、悲しそうな、顔が浮かぶ。
沙枝。そんな顔するな。
そう言ってやりたいのに。俺の喉から、言葉が発せられることはない。
俺の目の前にいる沙枝は、ゆっくりと振り向きながら遠ざかっていく。
待ってくれ。俺はまだ、沙枝に何も伝えられていない。あんな顔をしている沙枝に、言葉すらかけてやれていない。
遠ざかる沙枝。視界が白くぼやけていく。
待て。待ってくれ。沙枝…!
「………さ、え」
自分の喉から出たとは思えないかすれた声で目を覚ます。
ここはどこだ?
意識がはっきりとしない。一度目が覚めたことがあったような気がするが…?
不意に、強い頭の痛みが燥耶を襲う。と同時に、燥耶は今までのことを一気に思い出した。思わず周囲を凄い勢いで確認しようとして、胸元の痛みに顔をしかめる。
「ぐあっ……。」
思わず声まで出してしまった。そのままもう一度横たわる。知らない天井、知らない布団、知らない場所。胸元の痛みに耐えつつ必死で頭を働かせる。どういうことだ。戦は、どうなったのか。
そして、沙枝は。
「お、とうとうお目覚めかい。」
考えにふける燥耶の前に、そう声をかけつつ現れたのは、一人の青年。
「一時はどうなることやらと思ったんだけど。助かって何よりだね。」
そう言って優しげに微笑む青年は、思わず燥耶が言葉に詰まるほど、整った顔立ちをしていた。
「…なにが、おこったんですか。おれは、どうして、ここに。」
声の発し方を忘れてしまったかのように、かすれた声しか出せない燥耶。
「ごめんな、何が起こったのかは僕にもわからないんだ。僕は、君が川縁に血まみれで倒れているのを見つけて、連れ帰って看病しただけだよ。いや、君の状態はひどいものだったんだ。胸に大きな刺傷。あとほんの少しでも位置がずれていたら助からなかったと思うよ。」
「…ありがとう、ございます。おかげで、たすかりました。」
「本当に良かったよ。まあ、まだ全然完治には程遠いから、しっかりゆっくり休んで、早く治しちゃおうな。」
「はい。」
青年の優しさが胸に染みる。とても、ありがたいと思った。
 




