八
「雪!どこ行ってたんだよ。雪ん家のおばさんおじさんと一緒にたくさん探したんだぞ。」
「ごめん、…ごめんね、草太くん。」
「ったく。心配かけやがって。一人で森入るなって俺言ったろ?」
「うん。ほんとにごめんね。」
強い言葉を吐きながらも、雪のことを本気で心配していたことが丸わかりな目を、草太はしていた。いい子だなあ。沙枝がそう暢気に思っていると、草太はこちらの方を向く。
「あの…。こんにちは。雪を助けて下さったんですか?」
「まあ…、うん、そうかな。雪ちゃん、森の中で困ってたみたいだったから。一緒に探そうか、って連れてきてただけだよ。」
「そうだったんですか。あ、俺草太っていいます。雪のこと、助けて下さってありがとうございました。」
そう言って草太は深く頭を下げた。隣で雪もまた頭を下げる。お似合いだよとは言わないでおいた。
「いやいや、私は何にもしてないよ。私はただ、雪と楽しくおしゃべりしながら歩いてただけだから。気にしないで。」
「いや、それでもありがたいです。あの、ムラに寄っていってくれませんか。お礼させて下さい。…ええと、失礼ですがお名前は?」
「あ、ごめんね。私沙枝っていう名前だよ。よろしくね。そんなお礼とかは全然大丈夫だけど、…ムラにはお邪魔しようかな。スリナのムラ、だっけ?」
「そうです!では、案内しますよ。ほら雪、帰るぞ。」
草太は雪の手を無造作にとり、歩きだそうとして。急に立ち止まった。表情は強ばり、大量の汗をかいている。何が起こったのかすぐに分かった沙枝は、雪に聞こえないように小声で草太に話しかける。
「もしかして…、自分も帰り道分からなくなっちゃった?草太くん。」
「そっ、そんなこと…。…はい。そうです。…雪を探すのに必死で、帰りのこと考えてなくて…。」
「ふーん。そんなに心配だったんだ。」
顔がにやけるのを抑えられない沙枝。草太は真っ赤になった。
「ちょっ、いや、ばっ、…に、にやにやするのは止めて下さいよ!」
「そっかそっか。ごめんねー。で、草太くんはどうするのかな?」
「そ、それは…。」
「ねえ雪、草太くん帰り道が…。」
「だあーーっ!止めて下さいってば!」
「じゃあほんとにどうするの?草太くん。」
「えっと、それは、その…。」
草太はたじたじだ。ますます汗をかき、視線は泳ぎまくっていた。
「…草太くん、大丈夫?顔真っ赤だよ?」
雪に純粋に心配され草太は更に追い詰められる。沙枝は相変わらずにやにや。どうしようもなくなった草太は。
「うわああああ!!」
思わず頭をかきむしって叫び声を上げてしまった。




