七
「ねえ、沙枝お姉ちゃん。」
不意に雪は真剣な顔で沙枝のことを見上げた。
「うん?どうしたの?」
「わたしにも、いつか好きな人ができるのかな。今の沙枝お姉ちゃんの気持ち、分かる日がくるのかな。ムラの友達はわたしより年上の子が多くて、みんな誰が好きとかそういう話ばかりするの。なんだか自分は置いていかれてるような気がするというか、実感が湧かないというか。とにかくよく分かんないの。」
「ふふ。そうねえ、雪にも、いつか分かる日が必ずくるわ。これだけは絶対よ。でも、それがすぐ来るか、なかなか来ないかは、私にも、雪にも、誰にも分からない。好きっていう気持ちは、抱こうとして抱くものじゃないの。気付いたら、もうそうなってるの。私だって、燥耶のことが好きだって分かるまでは、好きっていう気持ちが何なのか、全然分からなかったわ。そういうものなのよ。だから変に焦ったり、無理に理解しようとしたり、周りに合わせたりしなくていいの。ね?」
「うん。ありがとう、沙枝お姉ちゃん。」
そこで沙枝は、雪が迷子になった理由をまだ聞いていなかったことを思い出した。
「あ、そうだ。そもそも、雪はなんで迷子になっちゃったの?」
雪はその問いに少し顔を赤らめて俯く。
「うん…。実はね、お花を摘んで、持っていこうかと思って。」
「お花?誰かにあげるの?」
「そうなの。わたしがよく遊ぶ子の中にね、草太くんっていう男の子がいてね。いつもわたしに意地悪してくるし、わたし、少し苦手だったの。でもこの前、わたしが風邪引いちゃって寝込んじゃった時にね。みんながお見舞いに来てくれて、それですぐに遊びにいっちゃった後に、一人で戻ってきてくれて。大丈夫か、果物持ってきてやったから食え、って。それでそのまま、お母さんが帰ってくるまで一緒にいてくれたの。あんまり話とかした訳じゃないんだけど、心配してくれてたみたいだったから、ありがとう、って言いに行こうと思って。それで、お花も持って行こうかなあと思って、森の中に入って、それで迷子になっちゃったの。」
沙枝は顔に笑みが浮かぶのを止められなかった。なんと微笑ましい。
「そっか。それは大変だったね。…ねえ雪?案外早く、あなたが私の気持ちを分かる時、くるかもしれない。」
「ふえ?そうなの?」
「ふふ。うん、そうよ。心配しなくても大丈夫。」
「うん!」
雪もまた笑顔になる。と、その時。
「せつーーーー!!」
雪の名を呼ぶ声が聞こえてきていた。
「あ、あの声は。…草太、くん?」
「ほら、雪。返事してあげなきゃ。」
「あ、そうか。はーい!こっちにいまーす!」
「雪!」
草をかき分けて走ってきたのは一人の少年。この子が草太なのだろう。そのままの勢いで雪に抱きつこうとして直前でやめる姿がまた微笑ましかった。