六
雪は沙枝の手にすがりつくようにしていた。その様子が一番、彼女の不安な気持ちをよく表していた。しかし口を開こうとはしない。ただ黙ってついてくる姿に沙枝は心配を募らせていた。
「ねえ、雪?あなたが住んでいるのは、どんなところ?」
こういう時はとにかく話しかけることだ。親しげに話を投げかけて、頷きだけでも返してもらう。…燥耶のことを思い出さずにはいられなかった。
「スリナ族の、ムラだよ。」
「そう。雪は、スリナのムラ、好き?」
雪は静かに頷く。一つ、ではなくかなりの間が空いて話し始めた。
「でも、最近近くの川の水が減っちゃったの。小さな畑があるんだけど、水が足りなくて育たなくて。みんな困ってる。」
「そうなんだ。それは大変だね。なんとかなるといいね。」
雪はまた小さく頷いた。今度はすぐに口を開く。
「お姉ちゃんは、なんて名前なの?」
「ん?私?私は沙枝っていうのよ。」
「沙枝お姉ちゃん。分かった。ねえ、なんであんなところにいたの?沙枝お姉ちゃんも道に迷っちゃったの?」
「ううん、違うわ。私はね、ある人を探しているの。」
「そうなんだ。どんな人?」
雪からも色々と話すようになってくれて沙枝は嬉しかった。
「燥耶、っていう私と同い年の男の子なんだけどね。強くて、格好良くて、とっても頼りになる人なんだよ。私のせいでいなくなっちゃったから、探してるの。」
「え?沙枝お姉ちゃんのせいで、いなくなっちゃったの?」
「そうなの。…私のせいなの。もう一度、絶対、燥耶には会いたいからね。こうやって歩いて探してたんだ。」
「そっか。…もしかして、沙枝お姉ちゃん。燥耶お兄ちゃんのこと、好きなの?」
「うん。大好きだよ。」
「ほえぇぇーーー………。」
「ん?どしたの?あ、もしかして、そんな答えだと思ってなかった?」
「うん。ちょっと、びっくりしちゃった。」
「あはは、そっか。そうだよね。私も、他人に言ったのは初めてかも。でも私、本当に燥耶のこと好きなの。そのことに気付いたのは、燥耶がいなくなる直前だったから、本人には言えてないんだけどね。だから燥耶を見つけたら、ちゃんと伝えるんだ。あなたのことが、大好きです、って。」
「うん…。すごいね、沙枝お姉ちゃん。わたし、応援するね。」
「ありがとう、雪。」
二人で笑顔になる。雪の言った通り、以前の私だったら雪の問いに対してはっきりとした答えを返せていなかっただろう。でも、今の沙枝なら、燥耶のことを胸を張って好きだと言うことができる。それって、とっても素敵なこと。そう思った。