三
改めて涙がこぼれる。私も。私もだよ、燥耶。燥耶に、早く会いたい。
〈燥耶は、なんでいなくなっちゃったの?…やっぱり、私がやったの…?〉
〈そうさ。君の力がやったことだよ。正確には、力の暴走が、かな。《守り手》の力を行使したのが初めてだったというのは、合っているだろう?〉
〈うん、そうよ。あんなの初めて。〉
〈今まで一度も使ったことがない、つまり訓練をしていた訳でも、扱い方が分かっていた訳でもない。そんな沙枝が激情に身を委ねた結果、発動した《守り手》の力。そりゃ暴走するに決まってる。沙枝、燥耶は遠くに飛ばされてしまったんだ。おそらく君の、燥耶を守りたい、助けたいという気持ちがそうさせたんだろうな。それにしても、人一人まるごと飛ばしてしまうなんて。《守り手》の本気がここまでとは。私は驚いたよ。〉
〈それで、燥耶はどこへ行ってしまったの?〉
〈詳しい位置までは分からないが、どっちに行けばいいのかは分かる。沙枝の案内なら任せてくれよ。〉
〈ありがとう。すぐに探しに行かないとね。〉
〈ああ。私からも頼む。まだ生きているのは確かだが、燥耶が瀕死の重傷を負っていたこともまた確かなんだ。心配だよ。全く、燥耶ほど何度もハラハラさせられた《遣い手》は初めてだ。早く見つけて安心したいよ。〉
〈うん、そうだね。これからもよろしくね。〉
そう心の中で言って《炎花》との会話を終えると、沙枝は目尻に残る涙を拭ってから新たな気持ちで一歩を踏み出した。まずは…、夜継のところだな。生まれ変わったような心地だった。心の支えができたからだろうか。燥耶にもう一度会うんだ。それまで、立ち止まるつもりはなかった。
後処理の指示を出している夜継に近付く。沙枝が声を掛けるよりも先に夜継が気付いた。
「どうした沙枝。休めと言ったろ。……なんだ、そんな顔をして。」
「燥耶を探しに行かせて。」
「燥耶を?…だが、燥耶は恐らく…。」
「生きてるわ!だから探しに行くのよ!」
「なあ沙枝、いくら現実を受け入れられないからといって…。」
「現実よ!《炎花》がそう言ってるの!遠くに飛ばされただけで、まだ生きてるって!」
「《炎花》が?…うーん、しかし俺はお前を行かせる訳にはいかないな。」
「私の力のせい?それって。」
「良く分かってるじゃないか。今ここでお前に抜けられるのはもったいなすぎる。」
「ねえ?その力を使ってるのは私なのよ?燥耶を探しに行かせてくれなかったら、もう一生あんたのために力を使ってあげないわ。」
「……はあ。今までは殺すぞと脅しをかければよかったんだが、こうなってはそれもできんな。行くなと言っても聞く気はないんだろう?」
「ええ。もちろん。」
「なら行ってこい。仕方ない。ただし必ず戻ってこいよ。」
その言葉の途中で沙枝はもう夜継に背を向けて歩き始めていた。勿論返事などしない。とにかく燥耶を見つけるんだ。それしか頭になかった。