表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎花流水  作者: くまくま33233
捌 前進
77/159

 次第に周囲の音が聞こえるようになっていく。沙枝は目を開けた。自分が水に囲まれた中でしゃがみ込んでいると分かるまでに、しばらく時間がかかった。はっと顔を上げる。沙枝の中で、時は連続していない。沙枝の最後の記憶は、胸から血を出し、倒れる燥耶。その光景を思い返すだけで頭がにぶく痛んだ。


「燥耶!」


 その名前を叫ぶ。無事を信じていた。確かめたかった。びしょ濡れの服も、そもそも何故周囲が池のように水をたたえているのかも、沙枝にはどうでもよかった。燥耶がいたはずの方へ駆け出そうとして、足を取られる。地面に亀裂が走っていた。しかしそれを確かめることなく、沙枝はまた立ち上がり懸命に足を前に出した。膝ほどの高さまである水の抵抗が激しい。それでも沙枝は足を止めない。


「燥耶…。燥耶、燥耶っ!」


 何度も名前を呼ぶ。返事を期待するかのように。何かにしがみつくかのように。粟立あわだつ心に立ち向かうために。


 燥耶が倒れた場所にたどり着く。

 そこには、燥耶は、いない。


「そう、や………?」


 周りにはいくつもの死体が転がっているのに、燥耶だけがそこにいない。


「燥耶?ねえ、燥耶?……燥耶、返事してよ!」


 答える声はない。声どころか、姿が見えない。狂ったように何度も何度も燥耶の名前を呼びながら辺りを歩き回った。何も考えられなかった。足を止めてしまうと、燥耶は永遠に帰ってこないんじゃないかという気がした。




「……え………おい……さえ…沙枝!おい沙枝!止まれ!」


 肩を掴まれ立ち止まる。見上げると夜継の顔があった。驚いた。全然近付いてくるのに気付かなかった。


「お前な、まずは休め。お前が身体を壊してもらっちゃ困る。あそこまでの力を示したんだからな。」


 夜継のその言葉も、沙枝の頭には意味をもったものとして入ってこない。


「でも…燥耶が…。燥耶を、見つけないと、助けないと……。」

「落ち着け!これだけ探したんだ、見つからないなら諦めろ!第一、お前がやったんじゃないのか!?」

「…え?私、が?」

「そうさ。この水浸しになったのも、そしておそらく燥耶が消えたのも、みんなお前がやったんだ。……覚えてないのか?」

「そん、な…。わたし…。」


 言葉が続かなかった。自分がやったんだと言われても、実感も湧かなかったし、燥耶がどこへ行ったかもまた分からなかった。茫然ぼうぜん自失じしつになりながら意識を取り戻した場所へと戻る沙枝の目に、光るものが映る。


 常に輝きを失うことのない、並び立つもののない美しさを誇る神剣。

 《炎花》がそこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ