八
心臓の音が、その速く何度も刻まれる鼓動が、耳に大きく届く。小さくなっていく燥耶の背中を見ながら、沙枝はただ立ち尽くしていた。
予感は間違っていなかった。沙枝は、心の中に抱えていた問題に、ついに答えを見つけたのだ。
私は、燥耶が、好きだ。
気付いたらそれはすんなりと腑に落ちた。好きだ。好きだからだったんだ。気付いたらそれはもう止まらない。気持ちが溢れてくる。
「燥耶…。」
思わず名前を呟く。視線はその小さくなる後ろ姿から外さない。外せない。足が勝手に、一歩、そして二歩、前へと動く。気付いてしまった以上、燥耶を一人になんてできない。燥耶のあの笑顔が目に焼き付いている。燥耶のあの言葉が耳に残っている。私には何もできないかもしれない。でも、私は燥耶のすぐ側にいたい。いつの間にかその背中を目指して沙枝は走り出していた。
「おい!」
後ろで夜継がなにやら声を上げたようだったが、全く気にならなかった。
燥耶は走っていく間、謝罪の気持ちで心が一杯だった。今から自分は、人の命を奪いにいくのだ。自分の使命を果たすための必要な犠牲だったとはとても言えない。ただ申し訳なかった。とにかく戦っている間だけは心を封じよう。そうしないときっと、もたないだろうから。燥耶はそう気持ちを切り替えながら戦闘のただ中へと突っ込んだ。
すぐに前から一人、若い男が剣を片手に飛び出してくる。燥耶は《炎花》を構えた。
〈ついに実戦かい、燥耶。〉
《炎花》の声が脳内に流れ込む。今までずっと、鍛錬をしてきた間、燥耶は実は《炎花》とずっと会話をしながらこなしていたのだ。《炎花》と相談し、助言を受け、少しずつ《遣い手》としての技能を身につけてきた中で、その会話はとても気軽なものになっていた。
〈そうさ。いくぞ、頼んだ!〉
燥耶がそう答えると同時に、《炎花》の表面が炎で覆われる。若い男は剣を振り上げて走り込んでくる。その姿を見ながら、燥耶は冷静だ。胴ががら空き。それをすぐさま見て取ると、相手よりも速く懐へ飛び込み、その腹を横一文字にかき斬った。その男は夥しい血を流しながら、自らの血溜まりの中へ倒れ込む。
目の前が真っ赤にちらつく。とうとう両親の他に人を殺してしまった。儀式の光景が脳裏に蘇りそうになるのを、必死に押し込める。今は心を封じるのだ。そう自分にもう一度言い聞かせた。
震える手をなんとか押さえて、《炎花》を握り直す。両側から二人の男が迫ってくるのが見えた。その場で《炎花》を横に薙払う。するとその先から鞭のような細い炎が飛び出し、迫ってきていた二人に巻き付いて動きを封じた。その間に燥耶は素早く二人を殺す。次いでその二人に火をつけると、その火を増幅させ前方に一気に放出した。いくつもの黒こげになった焼死体が出来上がる。
《炎花の遣い手》は、その能力を遺憾なく発揮していた。