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炎花流水  作者: くまくま33233
漆 流水
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「沙枝は?沙枝はミヤコに連れてこられる前、ムラを出たことあった?」

「うーん、近くの氏族のムラなら何度も行ったけどな。よくおつかいとかさせられてたからね。でも、せいぜい二つ三つ隣のムラってだけだもんね。ましてやクナイなんて本当に遠い存在で。実際に攻めてきた時まではこんなところまでまさか、って思ってたな。それからはあっと言う間だったけど。」

「そっか。」


 短く返事をした燥耶は黙ってしまう。沙枝もなんとなく言葉が続かなかった。後方の兵達の話し声が風に乗ってやけに大きく聞こえてくる。兵達は沙枝と燥耶を変にうやまっているのか、それとも接し方が分からないということなのか、どことなく皆距離を置いていた。なんとなく浮いてしまっている二人。そのためこの沈黙も破られることはない。結局休憩と声がかけられるまで二人は黙ったままだった。




 行軍は何日も続いた。起きて、歩き通して、また寝るの繰り返し。歩く場所は森だったり、野原だったり、時には峠も越えたが、それでもただ歩いているということには変わりがない。それが終わってもその先に良いことが待っている訳でもない。絶望してしまいそうな時間であるはずだったが、沙枝は意外にも心落ち着いていた。そんな自分に驚くくらいだった。おそらく隣を歩く燥耶のおかげだろう。


 燥耶はほとんど話さない。時折ぽつぽつと二人で昔のことを話したり、ただそれだけだ。それでも、燥耶がそこに、沙枝の隣にいること。沙枝はそのことが、何よりも嬉しくてありがたかった。この気持ちはなににも代えられない。

 ここのところ心を占めていた不思議な気持ちに、なんだか決着がつきそう。燥耶の隣を安らかな気持ちで歩きながら、沙枝はそんなことを思っていた。



「ようし、止まれ!今日はここで夜を越すぞ!」

 おうと応える声も心なしか元気がない。何日歩いただろう。速さはそれほどではなくとも、やはり何日もは疲れが溜まる。兵達もそれは同じようで、皆最初ほどの元気は表情から失われていた。

 しかし何日もやっていれば勝手に手は動く。天幕を張り、火をいて、水をんできて、食事の準備をする。慣れないことばかりだった野営も板についてきた。初めの内は燥耶との二人分しかしていなかったが、慣れてくると手が余るので何日か前から周りの兵達の分も手伝うようになった。おかげか、兵達と少しずつ会話ができるようになっている。やはり完全に浮いているというのは居心地が悪かったので、沙枝はほっとしていた。


「お疲れ様です。火、焚いておきますね。なかなか到着しませんね。」

「あ、ありがとうございます。そうですね、もうそろそろだと思うんですけど…。」


 手伝いながら声を掛けていく。話してくれるようになっても、身なりの良い方、つまり一般兵達は沙枝達二人に敬語を使い続けていた。どうやら《炎花》にまつわる神話はクナイの人間なら誰でも知っているものであり、《遣い手》、そして《守り手》はかなり敬われているようなのだ。沙枝としては、何だかこそばゆく思ったのと同時に、恐れ多いと思わずにはいられなかった。私は、私なんか、ただの普通の一人の女の子なのだ。何も為せていない。敬う態度を取られる度に、そう考えてしまう自分がいた。

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