一
建物を通り抜けて裏に出ると、そこは空き地となっていた。きっとここで実戦的な訓練などをしたりするのだろう。かなり広いそこに、知らせを聞いたのか兵達が続々と集まってくる。その数はムラの男衆よりずっと多く、空き地に集うその光景には圧倒されるものがあった。沙枝から見て向かって左側、三割くらいの兵が明らかに装備が劣っている。これが以前燥耶が言っていた占領地の男からなる兵だろう。待遇の差は明らかだった。
少しざわめいていた兵達も、夜継が一歩前へと出ると一斉に静かになる。全員の注目が自分に集まるのを待ってから、夜継は堂々とした様子で話を始めた。
「皆の者!昨日も知らせた通り、出立は今日の夕刻だ!各々準備を進めるように!」
兵達のおうという返事が辺りに響きわたる。
「此度の戦にはこの二人が同行する!少年が燥耶、隣は沙枝だ!この二人に関しては俺が直接指示をするため皆は気にする必要がないということも言っておこう!」
こんなことは初めてなのだろう。声こそ上がらないものの、兵達の動揺でその場が揺れた。
「一応知らせておくと、燥耶が《炎花の遣い手》、沙枝が《流水の守り手》だ!さぞかし活躍してくれるだろうと期待している!では、解散!準備を怠るでないぞ!遅れる者はその場で斬り捨てるゆえ覚悟しておけ!」
「おう!!」
一際大きな返事に今度は本当に地面が揺れた。駆け足で散っていく兵達を見ていた夜継はこちらに視線を向ける。それで我に返った沙枝は、自分がここに来てから一言も発せていないことに気が付いた。それだけここまでの流れがあっと言う間だったということか。ただ色々なことに圧倒されていただけか。
「先ほど兵達にも言ったが、今日夕刻に出立だ。今は昼に近い時間、夕刻までに荷物を持ってもう一度ここに来い。皆に知らせたということでお前達二人は正式に軍の一員だ。よって遅れたら躊躇わず斬り捨てるからな。」
二人とも声も出せない。
「返事は!?」
「はっ、はい!」
その場で回って夜継に背を向けると、沙枝は駆けだした。隣で燥耶もまた駆けているのを感じる。とにかく今は夜継から、なるべく速く、なるべく遠く立ち去りたかった。ミヤコの街中も走って通り抜ける。周りは目に入らなかった。行きにかかった時間からは信じられないような速さで、二人は社に戻っていた。




