八
「まあ座ってくれ。」
自分の家かのような気軽さと尊大さで二人に着座を促す夜継。普段では考えられないような長い時間を掛けて沙枝は夜継の前に座る。素早く動くなんて、ましてや目を合わせるなんて、できそうになかった。
「久しぶりだな、二人とも。」
この言葉に私はどんな表情を浮かべれば良いというのだろうか?
「燥耶は…、儀式の時以来だったか。あの時はまるで人形のようになってしまっていたが、話に聞いていた通り元気になったようだな。」
燥耶の方を向いて発せられた言葉に、燥耶は、何も反応しない。反応したくないのか、反応できないのか、沙枝には分からなかった。それにしてもこの男は。何を考えて過去を抉り出すかのような話題を投げつけてくるのだろうか。
「そして。」
反応のないことをつまらなく思ったのか、夜継は次にこちらを向く。
「沙枝。もう少しでこの俺が首を飛ばすところだったお前が《守り手》だったとはな。免れたことを神に感謝しろよ?」
「なんなのよさっきから!」
我慢できなかった。この先どうなるかも考えず、思わず声を上げてしまう。王宮内の広場での光景が何となく重なった。
「ほう?」
夜継の瞳が妖しく光る。きっと夜継も、あの日を重ねて見ているに違いない。
「さっきから聞いていれば、私たち二人の心の傷に塩を塗り込むようなことをして!全てあなたのせいだというのに、これ以上何をするつもりなのよ!」
「相変わらず真っ直ぐに言ってくれるな。そんな奴はお前しかいない。実に面白い。
ああそうだ。わざとやっているに決まっている。俺にこんな長い時間待たせやがって。お前ら二人なんて出来損ないなんだよ。その腹いせと言ったら分かるか?」
「あなたねえ…、自分のしたことが分かっててそれを言ってる?あなたがそれだけの間待たなければならなかったのは、他でもないあなた自身のせいなのよ!自業自得だわ!」
「沙枝。前にも言ったと思うが、俺は平和で豊かな世界を実現したいんだ。それもなるべく早く。そのために最善の手を常にとっているだけなんだよ。」
沙枝は立ち上がる。やはりこの男に話は通じない。
「私は出ていく。これ以上あなたの話を聞いていたくなんてない。」
「待て沙枝。俺は今日来た要件すら言っていない。」
「知らないわ。失礼します。」
振り向いて歩き出す。その沙枝の耳に次に届いた言葉は衝撃的だった。
「咲と、幸、だったか。」
思わず足を止める。
「今お前がこのままこの部屋を出ていったら、二人はどうなるかねぇ。ま、俺としちゃ知ったこっちゃないってのが本音だが。」