五
「その時も初めは普通に攻めてきたの。兵士がムラを囲んで、中に入ってこようとするんだけど、濠とか柵とか、防御は万全だった。私たちも三回目ともなると慣れてきてて、火をつけられればすぐに消すし、入ってきそうだったら叩き落とすし。人数は割と揃ってたから、今まで通りやれば今回も守れる、そう思ってた。すると一旦敵が攻撃をやめて引いたの。もう諦めたのかな?みんなの顔に安堵の表情が浮かんだ瞬間だった。
闇が、飛んできた。」
「そうとしか言いようがなかった。それは音もなく飛んできて、柵も、建物も、そこにいた人も関係なく、ムラの四分の一を吹き飛ばした。直撃を受けた人は皆死んでた。私は思わずクナイの軍の方に目をやってた。遠くてもすぐに分かった。あの若い男、その時は夜継っていう名前を知らなかったけど、とにかくそいつがやったんだって。目があるはずのところが穴になってた。闇に。」
「そこからはひどかった。あっと言う間だった。闇がおちたところは草もなにもないただの土になってて、そこから兵たちがムラの中に入ってきた。直接戦闘になったら、私たちが勝てるはずない。いつでも逃げられるように支度してあった筈なのに、その暇すらなかった。」
「結局あそこにいたシノミ族のみんなの内半分くらいは殺された。私たちのムラはなかったし、クナイへのみんなの反感が強かったからか抵抗が激しくて、それで。私たちは網で捕まえられちゃったから、抵抗しようにもできなかったんだけどね。」
「そしてここに連れてこられた。正直、何回も全て諦めて死んじゃいたいって思ったの。でも、私たち二人は押し込まれた家がたまたま近いところだったから、二人でよく会って話してた。私たちが今死んだところで、クナイにとって痛くも痒くもない。だから生きて、いつか見返してやろう、って。二人で何度も、励ましあって。」
「でも、…それもここのところ限界に近くなってきてた。」
怒りは奥から際限なく湧いてくる。ムラを滅ぼしたのも、二人をこんな目に合わせているのも、全て夜継。やっぱり、許せなかった。そんな気持ちをなんとか押し込めて、沙枝は二人に聞く。今ここで二人に怒りを放出しても、意味はない。
「…ここでの暮らしは、どう?二人とも見るからにやせてる。…辛い?」
「…そうだね。毎日毎日仕事はきついし、銭は全然もらえないからろくなもの食べられないし。…沙枝のせいじゃないんだけど、沙枝のこと羨ましく思っちゃうな。」
「まあでも、同じ状況だったとして沙枝じゃなく私たちのどっちかだったら確実に死んでるからね。私たちは今生きて、また沙枝に会えただけで十分嬉しいよ。」
なんだかまた涙がでてくる。二人とも、いい子だな。私のこと責めたっておかしくないのに。自分だけちゃんと毎日食べて、平和に暮らしてる。二人に申し訳ないよ。
「ねえ沙枝。」
「…なに?」
急に二人は目に強い光を浮かべ沙枝を見た。
「いつかでいい。沙枝が《守り手》として、何かやらなければいけないのは分かってる。」
「それでも。いつか。夜継を倒して。沙枝がきっと、それに一番近いところにいるはず。」
沙枝も決意のこもった顔でそれに応えた。
「うん。分かった。」
それから笑顔になる。
「また約束だね!」
その言葉に二人も笑った。大丈夫。この約束だって、絶対にいつか果たされる。そう思って。咲の、幸の、そして九乃の、ムラの皆の、全てを背負って。




