四
ようやく落ち着いた三人はなんだか声を発しづらくなっていた。別れてこちら、お互いに色んなことがあったはずだ。改めて見ても、二人は確実に痩せている。ここのところの生活の様子が、語られなくても分かるようだった。
「ごめんね。あの時、すぐに戻らなくて。心配させちゃったよね。」
「いいの、沙枝。何よりも、あなたが無事で良かった。」
「そうだよ。私たちすごく後悔したんだ。力ずくでも止めるべきだったか。それとも…、一緒に行くべきだったか、ってね。」
沙枝の言葉に咲と幸が温かな言葉を返す。その温かさだけで、沙枝はまた泣いてしまいそうだった。
「それよりもさ、こうして会えたんだから、それでいいじゃん。何があったの、沙枝?巫女服なんて着ちゃって。聞かせてよ。」
こういう話をするのは三回目だな、と思いながら沙枝は話した。ムラに駆けつけたこと。捕まったこと。処刑されそうになったこと。《守り手》だと告げられたこと。我ながら感慨深いものだった。話し終えると、二人はしばらく無言になる。
「なんか…、すごいね。色々、本当に色々あったんだね。」
「うん。ここで三人会えたのって、奇跡なんだなって思った。」
「だからこそ、二人に会えて良かった。二人に生きて戻るって約束したのに、ってずっと思ってたの。やっと叶った。…ねえ、二人はどうだったの?私もすごく心配だったんだよ、二人のこと。ミマとセンのムラがおちたって聞いた時、…正直もう会えないかな、って思った。私にも聞かせてほしいな。」
二人の顔に影が射す。先に口を開いたのは咲だった。
「九乃さんと沙枝が行っちゃった後、私たちは相談して、ミマ族の、一線は退いたけどまだ動けるお爺さんに偵察にいってもらったの。そうしたら、…ムラは焼け野原になっててクナイ軍は一旦引いていったっていうことだったから、私たちでムラの片付けに行ったんだ。…そこは。…ひど、かった…。」
涙に言葉が出なくなった咲の代わりに幸が口を開く。
「…私たちのムラは、そこにはなかった。家も何も、みんな焼けてて。わたしたちだけの力じゃ再興が不可能なことは誰の目にも明らかだった。そこここに、…死体が転がってた。九乃さんのも。シノミの男衆が、全員死んでるのを確認した。見つからなかったのは、ミマとセンの十何人かと、沙枝、あなただけだったの。」
「私たち、みんなが帰ってからも探したんだ。九乃さんはいたのに、沙枝はいなかったから。だけど、何日探しても見つからなかった。誰かに、見つからないってことは捕まったんだろうって言われてやめたけど、時間が空くとまたいつの間にか探しに行ってた。」
「そうやって過ごしてた時に知らせが入ったの。もう一度、クナイの軍が攻めてきた、ってね。その頃には、みんなの頑張りのお陰か、センのムラの守りは私たちシノミのなんて比べものにならないくらい強固なものになってた。それで、最初、そして二回目の攻撃を凌ぎきったの。嬉しかったわ。なんだか今までの私たちの働きが報われたような気がして。」
「そんなこんなでいつの間にか夏も終わってた。みんなで、そろそろ諦めてくれるかなって話してた時に、またもクナイの軍はやってきた。先頭には今まで見たこともない、闇を背負った若い男。沙枝も知ってる、」
夜継。セン族のムラに手を下したのは、他でもない夜継なのだった。




