二
ふと疑問が浮かぶ。
「そもそもどうしてそんなに知ってるの?」
「自分で調べたんだ。
俺は《遣い手》ということもあって、小さな頃から様々な教育を受けていた。その中にはもちろん、歴史もある。しかし教師は、先代のところまでしか教えてくれない。家に来るどの教師もはぐらかすばかりで、クナイの“いま”を教えてくれることはなかった。初めはただの気まぐれでも、気付いてしまうと気になるものだ。俺はその不自然さに違和感を抱き、深く突っ込むことにした。そこから空いた時間には文献を漁ったり街に出て人の話を聞いたりするようになって、こうして“いま”を知ることができたんだ。
色々と知った後、俺は教師を問い詰めたよ。どうして教えてくれなかったんだ、って。最初のうちは俺のためだとか言い訳してたけど、やがて諦めたかのように言ったよ。夜継様の陰に触れてしまえば、首が飛んでしまいますから、だってさ。俺の教育課程には、夜継様の手が入っていたという訳だな。俺はその時、完全にはもう夜継様のことが信じられなくなったんだ。
前からうっすらとは感じてた。なんか信用しきれないな、って。平和で豊かな暮らしを実現するってのも、どうにも薄っぺらいような感じでさ。でもこの件は違う。夜継様は意図的に俺の目から隠した。きっと、それを知る頃には夜継様に完全に取り込まれていて逃れられないようになっている、という筋書きだったんだろう。これは闇だ。クナイが抱える、いや本質的には夜継様が抱える闇だ。あのお方の胸の内に潜む闇はいかほどなのだろうか。なんだか身震いがするよ。」
私も夜継と対面したとき、闇が広がっているように感じたっけ、と沙枝は燥耶の話を聞きながら思い返していた。
しばらく互いに沈黙が続く。
「…じゃあ、この道も調べた時に?」
「そう。この辺りほぼ全ての道を通ったし、大体の全体把握はできてるからね。こんななりだからさ、この辺りの人達から話を聞くのは大変だったよ。」
燥耶は立派だと思った。多角的な、柔軟なものの見方ができる。自分の身分に固執せず、気になったことを自ら調べ上げる。すごい人だ。誰にでもできることではないだろう。
と、そんなことを考えていた沙枝の目が、ある一点に吸い寄せられる。こちらに向かって頼りない足取りで歩いてくる、自分と同い年くらいの少女。その姿は、あまりにも見覚えのあるものだった。
「…咲?」




