十三
その後は社では出ない昼食を沢山の人と一緒に頂いたり、広大な燥耶の家の田畑を見せてもらったりとのんびり過ごした。燥耶の家は、とにかく広かった。広いといっても、田畑がだ。屋敷はそこまで広くない。なんでも何代か前の王から下賜された屋敷だったらしく、当時は庭などもあり今の何倍もの面積があったそうだ。それを当時の当主が大部分を壊して田畑に換え、周りの貧しい人々に渡していった。未だに全て一応燥耶の家の土地ということになっているが、燥耶達家族は普通に暮らしていける分しか稼いでいないとのこと。人柄とあいまって周囲に住む人々からはかなり慕われているようだ。
「そもそも何故下賜されるに至ったんですか?」
色々とついて回って案内してくれる春則に聞いてみる。
「元を辿れば、更馬様、ご当主様の家系は王族の血統なのですよ。ご当主様は亡くなられた先代の王と親しかったとも聞いております。」
「ええっ!?そうだったの、燥耶?」
「ん、まあ。でもそんなの、関係ないよ。それをかさにきて威張ろうとか考える訳でもないし、家族みんな意識したことないんじゃない?」
それでも驚きだ。それでは燥耶は夜継と遠縁ながらも親戚ということだ。
聞いてないよ!沙枝はまた思った。
のんびり過ごしていても、やはり一日はあっという間に過ぎる。帰る時間になり、燥耶と沙枝はまた広間に呼ばれた。
「また帰ってこれる時があればいつでも帰ってきてくれ、燥耶。待っている。身体には気を付けるんだぞ。沙枝さん、あなたもだ。是非また燥耶と一緒に来てくれ。いつでも歓迎しよう。社での燥耶を、これからも側でみていてもらえるとありがたい。」
「そうですよ、燥耶。また帰ってきて下さいな。私達は楽しみに待っておりますから。」
更馬と美夜からそう声を掛けられ、屋敷を後にする。春則は門まで見送りに来てくれた。
「若様、帰ってきていただけてとても嬉しかったです。楽しい時間でした。」
そこで少し声を落とす。
「ところで若様。お二人本当にお似合いでございますよ。次いらっしゃる時には今度こそ床のご用意を…。」
「やめてくださいって!」
入るときと同じように真っ赤になってしまう沙枝。燥耶はそれを見ているだけだった。燥耶はこう言われてどう思うのだろう。やっぱり嫌なのだろうか。ふとそんなことを思った。
いろんなことがあった気もしないでもなかったが、楽しかった。何より更馬をはじめとしたみんながとても暖かくそして優しかった。また来よう。そう思わせる場所だった。