十一
「改めて礼を述べさせてもらおう。ありがとう、沙枝さん。私は燥耶の祖父、更馬だ。沙枝さん、あなたも見てきたかと思うが、私たちもあの儀式の直後、燥耶の、あの姿を、見ているんだ。私達はとても心配していた。今回こうやって、燥耶がちゃんと帰ってきてくれたのはあなたのお陰だ。本当に感謝する。」
「私からも、本当にありがとう、沙枝さん。燥耶の祖母の美夜です。もう死ぬまで燥耶とは話すことができないんじゃないかと思っていました。こういう結果になって涙が出る程嬉しいです。沙枝さんのおかげです。」
なんだか感謝されすぎて、むしろ申し訳ない気がしてきてしまう。私は何もしていないどころか、燥耶にひどいことまで言ってしまったのに。
「そんな。私は感謝されるようなことは何もしていません。」
その後は沙枝の目から見ても、家族水入らずというか、穏やかな時間が続いた。会話を交わす燥耶。表情にこそ出ないが、くつろいだ気持ちになっているのが見てとれた。沙枝はほとんど会話に入らなかった。本当のことを言うと入れなかったというのが正しいのだが、暖かな時間を過ごす燥耶を見ているだけで満足だった。
会話が一段落したところで更馬が口を開く。
「少し疲れてしまったな。一度部屋に戻るとしよう。燥耶も部屋に行くといい。なに、ちゃんとそのままにしてあるから安心しろ。飯の時間になったら呼びにいく。ああ、沙枝さんも燥耶の部屋へどうぞ。」
そうしてその場はお開きになる。燥耶は別にいいと言ったのだが、春則が案内してくれた。沙枝は春則に疑問に思っていたことを聞いてみる。
「春則さんはどうして使用人のようなことをやっているんですか?」
「沙枝様、のようなこと、ではございませんよ。私は使用人なのです。」
「俺達家族はそんなつもりないんだけどね。昔からずっと俺は春則に燥耶って呼んでくれって言い続けてるのに、一度も呼んでくれたことないし。」
燥耶が口を挟むも、春則は更に続ける。
「若様は若様ですよ。私、いや私達は好きでやってるんですから。
沙枝様。私には両親、二人の姉、兄、そして妹、弟がおりますが、一家全員このお屋敷の中にいくつか部屋をいただいて暮らしております。」
「そうなんですか。」
少し意外に感じた。