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炎花流水  作者: くまくま33233
壱 喪失
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 明け方、ムラの男衆は長の家の前に集合した。

 皆一様に浮かない表情をしており、落ち着きなく周りの者と話をしていたが、長が前に立つと口をつぐんだ。


 突如として静寂に包まれた空気の中、茂繁はしばらく口を開かずムラの男衆を見渡していた。

 茂繁はムラの長となってからそこまで長く経っている訳ではなく、ムラで最も長く生きている者でもないが、六十を超えたその身体は衰えを感じさせない。髪には白いものが混じるものの、前に立つその姿には何故かオーラを感じさせた。

 誠実な人柄と、ムラの運営に関してどんなに些細なことでもムラの皆の声に耳を傾ける真面目さで、ムラの人々から慕われていた。


 長が口を開く。


「耳にした者もいるだろうが、改めて伝えさせてもらおう。

昨晩遅く、峠を越えた向こうのシカン族のムラがクナイの軍によっておとされた。家はことごとく焼かれ、辺りは血の海だったそうだ」


 長は一旦口をつぐんだ。男衆の間に、そして様子を見に出てきていた女達の間にもざわめきが走る。誰もが顔を青ざめさせていた。



  クナイ。


 ここ数年で圧倒的な武力を用い百を超えるムラを併合。急激に勢力を拡大し、近頃は自らを《クニ》であると呼称こしょうし始めた強大な存在。

 数々のムラが跡形もなく焼き尽くされ、沢山の人々が殺され、捕縛ほばくされた。身分差は激しく、制圧されたムラから連れてこられた人々は奴隷のような扱いを受け、重税に苦しみ、最底辺の暮らしを強いられる。人としての権利を得るためには更なるムラの制圧戦にて手柄を立てねばならなかったが、肉の盾のように使われ無惨に死んでゆくものが多かった。


 誰もが話には聞いていたが、こんな辺境のムラからは遠い話だと思っていたクナイの魔の手が今、すぐそこまで伸びてきている。ムラの者が恐慌きょうこうをきたすのも無理はない。


 ざわめきが収まらない中、長が声を張り上げる。


「しかし聞いてほしい!

私はこのムラを、そしてこのムラに住む皆を愛している。

美しいこのムラが焼かれるところ、皆の顔が苦痛に歪むところなど目にしたくはない!

ミマ族、セン族のムラに協力を仰いだところ、了承をいただいた。

今こそ我々が、このムラを守るために立ち上がり、卑劣なクナイに団結力の強さを見せつける時だ!」


 広場の皆が引き込まれるように長の演説を聞いていた。不安は拭いきれない。しかしこのムラを愛する気持ちは誰もが大きかった。

 いつの間にかムラの全員が広場に集まっていた。長はもう一度皆と目を合わせるかのように広場を見渡すと、大きく一つうなずいた。ムラの人々の歓声が満ちた。

 今、ムラの心は一つとなった。


 この日の午後、ミマ族、セン族の長がシノミ族のムラに到着、長の家にて血判を押した。両族とも気持ちは同じ。


 くして今ここに、三氏族共闘連合が誕生した。

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