六
次の日から、沙枝は昼間も燥耶の側で過ごすようになった。大母巫女は時々やってきて、燥耶に何やら指示をしてはまた去っていく。じっと見ているのは寒かったので、沙枝も時々燥耶と一緒に身体を動かしていた。退屈はしなかった。燥耶の舞っている姿を見ることに、飽きることはなかったからだ。
それは静かな時間だった。周りに吸い込まれてゆくのは、小さな、風切り音、燥耶の息遣い、足音。たまに沙枝のもの。それだけだ。燥耶は戦うための鍛錬をしているというのに、その空間は平和だった。沙枝は、ずっとこんな毎日が続けばいいのに、と思った。
食事は食堂でとるようになった。それは修練に沙枝が参加しなくなった次の日の、里の一言がきっかけだった。
「沙枝、私うさぎになってまう!」
「えっ!?」
わざわざ沙枝の部屋にまで飛び込んできて放ったのがその言葉である。何がどうなっているのやら。
「沙枝がおらんと、沙枝と一回も会われへんと、私寂しいて死んでまうわ!」
真剣な顔で迫る里に、沙枝は思わず笑い出してしまった。
「もう、笑い事ちゃうよ。ほんまにめっちゃ寂しいねんて。」
里もそう言いながら笑い出す。二人がひとしきり笑った所を見計らってか、なんと燥耶が話に入ってきた。
「じゃあ沙枝。せめて食事だけは、一緒にとるようにすればいいんじゃないか?」
「んー、でもそうすると、燥耶が食事の時一人になっちゃうよ。」
「全然それで構わないって。沙枝も里と話したいだろ?行ってこいよ。」
「でも…。」
「せやったら、燥耶さんも一緒に食堂来はったらええんとちゃいます?」
「う、いや、それは…。」
燥耶の渋る様子を見て、里は沙枝に耳打ちする。
「沙枝からも言うてや。きっと沙枝がお願いすれば、燥耶さんも聞いてくれるで。」
「うん、分かった。そうしてみる。」
頷いた沙枝はしっかりと燥耶の目を見つめる。
「燥耶、そうしようよ。今の燥耶なら、みんなで食べた方が絶対楽しいって。最初は端っこの方でいいからさ。…ね?」
「…う、まあ、沙枝がそう言うなら。」
こうして里とも絡むようになった燥耶は、目に見えて会話量が増えていった。まだ表情は乏しかったが、それも時間の問題だろう、と沙枝は思った。
ちなみに、里は燥耶が何も言っていないのにいつの間にか燥耶に対して敬語を使うのをやめていた。そんなこと自然にできるなんて。すごいなあ、里。




