表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎花流水  作者: くまくま33233
伍 家族
44/159

 今度こそ沙枝は部屋に戻る。そこには燥耶。こちらを向いていた燥耶は、沙枝が口を開くより早く声を発した。


「沙枝!…良かった。もう戻ってこないかと思った。」

「うん。ごめん、逃げちゃって。」

「俺も…、ごめん。思わず振り払っちゃって。そんなつもりじゃなかったのに。」


 言葉が続かず、二人で俯く。何でこうなる?答えはすぐそこにあるようで、しかしなかなか浮かんでこなかった。


「私ね、」「俺さ、」


 二人同時に顔を上げ、声を発する。目だけのやり取りがあった後、話し始めたのは燥耶だった。


「俺さ、…置いていかれると思ったんだ。」


 なんだって?


「沙枝が逃げていった瞬間に。理由は分からない。でも、沙枝がどこかへ行ってしまう気がして、それを全力で否定しようとしている自分に気付いた。その時、分かったんだ。沙枝に置いていかれたら、自分はだめなんだ、って。何でそうなるかはやっぱり分からないけど、まるで下りてきたかのように、それが頭に浮かんできたんだ。

なあ、沙枝。…俺を置いていかないでくれ。」


 燥耶のその言葉に、思わず笑ってしまう沙枝。同じことを言おうとしていたなんて。


「大丈夫。安心して。私はここにいるわ。」


 答えはすぐそばにあった。里に言われずとも、もうそこにあったのだ。






 一段と冷え込みが厳しくなってきた。吐く息が白くなり、社は白銀に包まれる。あかぎれができた手で、冷たい水を使って掃除するのが、一番憂鬱ゆううつだった。

 燥耶は順調に回復していた。沙枝以外の人間とも、簡単にではあるが話ができるようになり、ここ最近は大母巫女に連れられ《遣い手》として《炎花》の鍛錬たんれんに明け暮れていた。夕方になるとその燥耶を迎えに行くのが、このところの沙枝の日課だった。

 社の奥へ、今日も沙枝は西日を浴びながら歩く。目的の場所に辿り着くとそこには、《炎花》を振るう燥耶と、それを見守る大母巫女がいた。沙枝は燥耶の邪魔をしないよう、大母巫女だけに聞こえるくらいの声で挨拶する。


「大母巫女様、こんばんは。」

「おお沙枝か、こんばんは。」


 そのまま口をつぐみ、燥耶を見る。燥耶は、舞っているようだった。剣のことを良く知らない沙枝も見とれるような、洗練された動き。しかし沙枝には、疑問が浮かぶ。


「大母巫女様。《炎花》を《遣い手》が振るうと、炎が舞うのでは?」

「そのはずなんじゃがな。」


 そう言って大母巫女はため息を一つ。


「どうも燥耶は《炎花》の力を引き出しきれんようじゃ。儀式が不十分だったのか、神々がなにか判断を下したのか。詳しくは分からんのじゃが、燥耶が《炎花》の力を全てではないまでも使えるのは、朝からやってせいぜい昼過ぎまでといったところでのう。夕方にもなると見て分かるように、ごく普通の剣と化してしまうんじゃよ。」


 もう一度、大母巫女はため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ