一
「ところで、燥耶。…って呼んでもいいかな?」
「ああ。」
「…燥耶にも。ごめんなさい。私あんなこと言っちゃうなんて、どうかしてた。ひどいよね。里と話してきたんだけどさ、初めて知ることが本当に沢山あって。それで更に仲良くなれたというか、だから、ね。…だめ?」
燥耶は話してくれた。まだまだ乏しい表情と、すんなりとは出てこない言葉に乗せて話されたのは、一人の、運命に翻弄された、少年の物語。
燥耶はここ王都の生まれ。一族は昔からずっとその辺りに住んでいたらしく、周りに広い土地を持っており、それなりに不自由ない生活を送っていたようだ。
燥耶が産まれてすぐに巫女達が家にやってきて、その赤子は《炎花の遣い手》であると告げられる。一族は大喜び。一族の誇りとなったその子供燥耶は、両親を筆頭に溢れんばかりの愛情と考えられうる限り最高の教育を受け成長した。
《遣い手》ということで、当然のように剣技もみっちり鍛えさせられた。燥耶はその時間が最も好きだった。剣は自分の腕も同然だった。剣に導かれ斬り、剣を導いて舞った。ある日剣の師範は言った。“もう君に教えることは何もない。君は天才だ。”燥耶に負けたその師範が去った後も、燥耶は剣をふるい続けた。そんな日々が、前の冬まで続いた。
前の冬、ある寒い日、用事があるからと出かけていった両親を見送り、日課となっていた剣の素振りを庭でしていた燥耶の前に、一人の男が現れる。その男の目には、狂気が宿っていた。
「お前が燥耶だな。」
「いかにも。していきなり我が家に侵入したお前は何者だ。」
「ふっ。やはりすぐには分からんか。教えてやろう。俺の名は、…夜継だ。」
「夜継…?…!…陛下!これはとんだ失礼を致しました!」
慌ててその場に平伏する燥耶の肩に夜継の手が置かれる。
「よい。それより燥耶、俺についてこい。」
そう言ってさっさと歩き出す夜継。驚きに脳が追いつかなくなっていた燥耶は、やっとのことで夜継の後を追った。
連れてこられたのは川のほとり。縄と白い布で囲まれた中に入ると、正座している両親と蓋をされた長細い容器が目に入る。
「…これは?」
燥耶は尋ねずにはいられなかった。
「今からお前には儀式を執り行ってもらう。その容器には《炎花》、お前に運命づけられた剣が納められている。」
「儀式?儀式とは何を?」
「燥耶。今からお前は《炎花》を用いて、両親を殺すのだ。」