七
そして沙枝は語った。ムラのこと、戦のこと、そして捕虜となり、処刑寸前となったこと。話していて悲しくなった。でも不思議と、あまり辛くはなかった。里との言い争いを経て、また少し精神的に成長したのかな、と沙枝は思った。
沙枝が話し終えると、里が頭を下げた。目には涙が浮かんでいた。
「ごめん。ほんまごめんな、沙枝。ひどいこと言うたんは絶対私の方やわ。そんな…、そんなことがあってここにきたなんて、思ってもみんかった。沙枝は《守り手》やのに…。」
「もういいの、里。謝らないで。怒ってもないし、今から考えたらもっと早く里に言っておけば良かったなって思ってるくらいだから。…里も、もっと聞かせてよ。どんなムラだった?」
「ふふ。…うん。きれいなムラやったで、私んとこ。果物がようけ採れてなあ。みんなで分け合ってよう食べたもんや。」
「私のムラは春に、一面に花が咲く場所があったな。とっても美しかったよ。」
「そんなん言うたら、私んとこは秋に周りの木が全部色付いてなあ。燃えるような色合いに包まれて言葉を失う程やったで。」
「でも私のムラは、冬に雪が降って、一面の銀世界になるの。全て雪景色に染まった私達のムラの美しさに勝てるところなんて、どこにもないんだから。」
二人は顔を見合わせ、吹き出した。この言い合いなら、いくらでもしていいと思った。しばらくして、里が表情を暗くする。
「でも…、もうないねん。私らが心に思い描いてる美しいムラはもう。二度と戻ってはけえへんもんやねん。」
その言葉に、沙枝は顔を上げる。
「ならさ、もっと修練頑張ろうよ。」
今なら。今の私なら、この言葉が紡げる。
「もっともっと頑張ってさ、大母巫女様を超える、神々と直接お話できるくらいにまでなってさ、お願いしようよ。私達の美しいムラを、返して下さい、って。」
「…そうやな。ありがとう、沙枝。」
そうして二人は笑い合う。二人の顔は、なにかがおちたかのような、すっきりとした表情を浮かべていた。
部屋に沙枝は戻ってきた。そこにはやはり燥耶が座っている。改めて見ると、目に光が浮かび、感情が僅かではあるが表に出るようになったことでむしろ、身体に纏う淡い光がはっきりとし、まるで神々しさが増したかのような気がした。話せるようになればもっと燥耶さんに近付けると思っていたのに、これじゃ逆に遠ざかったみたいだ、と沙枝は思った。
「行ってきたか。」
「はい。ありがとうございました、燥耶さん。」
沙枝のその返答に、片手を挙げる燥耶。
「ちょっと待て。沙枝、お前いくつだ?」
「燥耶さんと同い年ですけど…。」
「だよな。じゃあ敬語はやめてくれ。…なんか堅苦しいというか、うん。」
そう言って目を逸らす燥耶に、笑いがこみ上げる沙枝。なんだ、とっても話しやすいじゃん。
「うん。分かった!」
沙枝は笑顔で、元気よくこたえた。