三
「燥耶さん、こちら私の親友の里です。ほら、よく私話題にしてますよね。」
「こんばんは。燥耶…さん?」
燥耶は沙枝へ顔を向けたまま微動だにしない。この後里どころか沙枝が話しかけても、燥耶は一度として反応を返さなかった。
里の部屋へと沙枝は里を送る。
「だめだったか。私にまで反応してくれなくなるなんて。」
「私はむしろ助かったと思ってるけどな。」
「助かった?どうして?」
「彼から感じる圧力ゆうんかわからんもんは前と変わらずやったし、何より沙枝が前言うてた目やな。目が合わんでもわかる。あそこには闇だけが広がってた。あんなんとがっつり目合わせたらどうなることやら。想像もつかんわ。」
「私はもうなんか慣れちゃったな。確かにいつまでも怖いけど、そういうものなんだって、それが燥耶さんなんだって思うようにしてる。」
「そっか。それはやっぱりずっと側にいてこそやな。なんかそれはそれで沙枝のこと羨ましなってきた。…でもやっぱり無理やな。毎日あの距離で生活する。うん、耐え切れんと逃げてまうと思うわ。」
「私、燥耶さんにいつかは里とも意志疎通がはかれるようになってほしいな。頑張ってみるね。」
「沙枝が頑張ることではない気がするけどな。いつかはそうなったらええな。」
里におやすみと言って別れ部屋に戻ると、燥耶はまたも変わらずそこにいた。質問すると返してくれた。安心した沙枝はそのまま寝支度をして寝ることにした。隣の布団から身じろぎの音がするのを聞きながら、なぜか小さなため息が出た。
慣れてくると余裕が出る。毎日の作業に体力がついてきたこともあってか、一日の終わりに倒れ込んでしまうほど疲れるということもなくなった。変わらない日常の中での話題には、クナイの戦のことも入ってくる。沙枝が社で日々を過ごす間にも、クナイは多くのムラを滅ぼしていた。
耳を刺すように響いていた蝉の声が止み、変わって涼しくなった闇夜に虫の音が満ちるようになった頃、沙枝ができれば伝わってきてほしくないと思っていた知らせが舞い込む。
ミマ、セン両族のムラ、陥落。
シノミ族と共に戦ってくれた両族の陥落、それはシノミの女子供老人もまた、無事ではないことを示す。咲、幸は?他の皆は?自分にはどうすることもできないと十分に分かっていながら、沙枝はいてもたってもいられないような気分だった。ふと里の笑顔が頭を横切る。里はどこから来たのだろう。もしかしたら里なら、ムラが陥ちたあとどうなるかとか、詳しい話を知ってるかもしれない。思い立った沙枝は、早速里を探した。




