二
昼食後は母巫女によるお話だった。建物の中で座っていられるだけましだ、と沙枝は思う。毎日暑い。特にこの時間は動く気がおこらない程だった。遠くで流れてゆく風のように、母巫女の話は沙枝の耳を通り過ぎていた。
「以前に、修練の目的は神の声を聞けるようになることだ、という話をしました。ではどうすれば神の声が聞こえるようになるのでしょうか。勿論修練を積むのですが、ただ修練を積むだけではいけません。修練を積むことによって何が達成され、どう最終的な目標である神の声うんぬんというところへ至るのか、ということを理解した上で、それを意識しながら修練に当たらなければならないのです。
では何を意識するのか。神の声を聞こうとするに大切なこと、それは自らの心を静めるということです。たかがそんなこと、と侮ってはいけません。巫女は戦へ同行し、兵に神の声を伝えるという役目を担うこともあります。死がすぐそこへ迫り、音の絶えることのない戦場という場所であっても、ただ一人自分だけはどこまでも落ち着いた心を持つ。そこまでのことができてやっと一人前です。貴方方はまだまだそこまでの域に達しておりません。引き続き修練に励むことです。」
とにかく難しいんだな、と沙枝はゆっくりと思った。
夕飯の時間になり、沙枝はあることを思いつく。
「里。燥耶さんに会ってみない?私、里のこと燥耶さんに紹介したいな。」
「ほんまか。大丈夫なんかな…?確かに興味はあるけど。」
「大丈夫でしょ。食事終わった後呼びにくるね。」
「わかった。ほな食堂で待ってるわ。」
笑顔で里と別れ、食事を手に部屋へ向かう。扉を開けると、待っていたのかいつも食事をとるところに座ってこちらを見ていた。
食事中も話題は尽きない。といっても声を発しているのは沙枝だけだが。燥耶が少しでも反応を返してくれるだけで、今までも楽しく感じていた二人の時間が更に楽しくなった。
食事が終わり、沙枝は里を呼ぶ。
「なんや緊張するわ。《炎花》の件でも目の前で見たし。でも声かけてみたとか、そんなんは一度もない訳やし…。」
「多分大丈夫だと思うけど。燥耶さんも。でももしかしたら里には頷いたりしてくれないかもね。」
「それは仕方ないな。彼今まで全然人が目に入ってなかったんやろ?で今回ついに沙枝は意思疎通を果たした。そこでいきなり入ってきた私がすぐに親しげに話しかけたとして、返答があった方が寧ろ驚くわ。」
「それもそうかもね。さ、着いたよ。」
扉を開ける。燥耶はやはりこちらを向いて座っていた。沙枝を見た時にはそのままだった顔が、里が続けて入ってきた途端に少しこわばったのを、沙枝は見逃さなかった。




