八
「ええーっ!《炎花》ってここにあるの!?」
「そらそうや。元々このお社自体、《炎花》を鎮めて納めておく為に建てられたらしいからな。」
「そんな…。全然知らなかった。」
「ちゃんとしいや。恥かくん自分やで。」
驚いた。沙枝は鼓動が速くなっていくのを感じていた。今度こそ、《炎花》を目の前にした時こそ、私は何かになれるのかもしれない。
鐘の音が周囲に響く。にわかに辺りが騒がしくなってきた。
「さて時間や。行こか、沙枝。」
「うん!私、楽しみだなあ。」
「今知ったなんてな…。ある意味大物やで。」
里は苦笑を漏らしていた。
大広間へ行くと、そこには十五人程の若い巫女達がいた。皆興奮した様子で囁き合っている。一人が里に話しかけていた。
「遅かったわね、里。」
「すみません。私ら遠くにおったもので。それより、わくわくしますね。」
「そうね。ついに伝説に名を残す神剣をこの目で拝めるのよ。私どれだけ待たされたことか。」
そう言った女の瞳はきらきらと輝いている。その気持ちに沙枝が共感を覚えていると、大母巫女が大広間へ入ってきた。
「皆揃ったようじゃな。聞いとると思うが、今からそなたらは《炎花》を目にすることとなる。…そうじゃな、復習じゃ。分かる者が答えよ。《炎花》はどこにある?」
先程里と話していた女が手を挙げた。
「大母巫女様がおられる建屋の更に奥です。」
「そうじゃ。してどのように置かれておる?」
今度は里が手を挙げた。
「水が満たされた容れ物に入れられ、祭壇に祀られています。」
「その通りじゃ。…では今から具体的に何をするのか、分かる者はいるかの?」
誰も手を挙げない。皆の目に困惑の色が浮かんでいた。
「はは。これは皆を驚かせる為に伏せていることじゃからの。知らぬのも無理はないて。
今からそなたらにはな、実際に《炎花》を持ってもらうのじゃ。」
皆一斉に息を呑む。沙枝もとても驚いた。そんなことをして大丈夫なのだろうか。
と、また里が手を挙げた。里のこういう積極的なところが沙枝は大好きだった。
「大母巫女さま。そないなことして大丈夫なんでしょうか。」
「なに、いつもやっておることじゃ。しかもな、心配せんでも大丈夫なんじゃよ。それは実際にやってみればわかる。」
大母巫女はそう言うと悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「さて、では話はこれくらいにして行くかの。皆待ち切れんじゃろう。わしについてくるがよい。」
大広間にいた女達は我先にと立ち上がる。興奮が更に高まっていた。