七
里は手を挙げる。
「なんですか、里。」
「母巫女様。それは具体的に、どのように感じるものなのでしょうか。」
「良い質問ですね。感じ方は人それぞれと言われています。因みに私はその時、室内にいたにも関わらず暖かい風がどこかから吹いてきたかのように感じました。それは神々の祝福の吐息だったのだと、今でも信じております。」
「そうなのですね。ありがとうございます。」
里が礼を述べ、話は再開する。里は沙枝に小声で話し掛けてきた。
「神々の祝福やて。えらいこと言われてんなあ、沙枝。」
「もう、やめてよ。きっとそれは燥耶さんだよ、私なんかじゃない。」
「そんなこと言わんときや。沙枝は自分をもっと信じるべきやで。
ま、私は沙枝がどないになったとしても、変わらず何でも言うけどな。」
「ふふ。ありがとう、里。」
「里!沙枝!無駄話はやめなさい!」
不味い、見つかってしまった。良い話だったのに。
忙しい日々も、何日もこなしていると慣れてくるものだ。沙枝は今の生活に、とてもやりがいを感じていた。相変わらず《守り手》としてのなにかは何も見えてこなかったが、毎日が充実していた。
それとは対称的に、燥耶との時間は一切進歩がなかった。呼びかけても反応はなく、心を閉ざした元が人因的なものだからか、人間は視界に入っていない、もしくは入れようとしていないようだった。沙枝は心の隅に生まれていた諦めの気持ちが、日に日に大きくなっていっているのを感じていた。自分は《守り手》として、何をすれば良いのだろうか。
あっという間に日々が過ぎ去り、夏の盛りとなっていた。社の周りにそびえ立つ木々からは蝉の鳴き声が降り注ぎ、強烈な日光が地面を、社を、そして人々を灼く。
沙枝は里と一緒に一休みしていた。掃除を終わらせ綺麗になった廊下の端で、二人は座り込む。袖は肩までまくられ、腕も足も顔もこんがりときつね色だった。
「はぁーっ。疲れた。この後は何だっけ?」
「なんや忘れたん?この間からみんなその話ばっかりやん。」
「私里以外とあんまり話さないから。ほら、食事別だとさ、少し年違うだけでもう接点がほとんどないんだよね。同い年なの里だけだし。」
「それは仕方ないかもしれんな。私は沙枝と話してる時が一番楽しいけどな!
それよりこの後や。ちゃんと母巫女様の話聞いときいや。私が言えたことちゃうけど。この間言うてはったで。」
「何々?教えてよ。」
「ここではな、入ってある程度経って修練もそれなりに身に付いてきた娘達に、ここに祀られてる秘宝を見せるらしいねん。いうてもその資格をもった娘がそれなりの数溜まってからじゃないとあかんらしくて、私ら二人で丁度良い感じの人数になったて言うてたで。私らはめっちゃ早い方やねん。」
「へえー。なんかすごいのね。その秘宝って何なのかしら。」
「沙枝…。ほんまに話聞いてなかってんなあ。」
「へ?何で?」
「沙枝に大いに関係ある物や。ここに祀られる秘宝といったらただ一つ。
神々が下賜された一振りの剣、《炎花》に決まってるやんか。」




