二
老女が最後に放った力強い一言を聞いた時、沙枝はまるで天啓を受けたかのように、頭から足先まで電流が駆け抜けたかのように、全身が震えたのを感じた。改めて、ここまで導かれた運命の不思議さが頭をよぎる。何度も死んでいてもおかしくなかった場面はあった。しかしその度に沙枝は生かされ、そしてここに辿り着いた。まさに宿命。目の前にはっきりと道が見えたかのような、そんな気がした。
「沙枝。これからお主には巫女達と一緒に修練を受け、《守り手》としての役目を十分に果たせるようになってもらおう。お主は今まだ、《守り手》としての何もかもが眠っている状態じゃ。なるべく早く、その内に眠るものを開花させる時が来ると良いのう。」
「その時が来たら、私はどうなるんですか。」
「それはわしにも分からん。わしは神々の声を伝えておるだけじゃ。しかしまあ、おそらくその真の力とやらが発現したら、夜継がお主に指示を出しにくるじゃろう。」
「つまりクナイのために働けと?」
「いずれはそうなるじゃろうなあ。あやつが更なる強大な力を欲しておることは明らかじゃ。この地上全てをあやつは手中に収めようとしておる。この機を逃すことはあるまいて。」
「そんな…。」
「沙枝。覚えているかのう?お主に下された処刑という裁きは未だ失われてはいない。ここはクナイの内にありながら、クナイとはまた異なる地。お主がここで修練を積むとなればわしが保護してやれるが、拒否すると言うのならば命はないということになる。」
「しかし…、クナイは私のムラを焼き、沢山のムラの人を殺しました。私はそれをこの目で見たんです。そのクナイのために修練を積むというのは…。」
「沙枝。先程も言うたが、お主が《守り手》として開花した時何が起こるのかはわしにも、誰にも、全く分からんのじゃ。神々から新たなるお告げがあるのかもしれんし、真の力というものが夜継の期待に沿わないこともあるかもしれん。全てが分かってから決断するのでも、決して遅くはないはずじゃ。
少なくともわしはな、沙枝。神々を信じておる。神々が《遣い手》、《守り手》を生み出されたということは、その二人が神々の期待する働きを修めることができれば、地上の生き物達の平和で豊かな暮らしが守られるということじゃ。それはクナイと共に戦うことで達せられるのかもしれんし、はたまた全く別のことが課せられるのかもしれん。
未来は変えられるんじゃ。沙枝。
この先起こりそうなことが嫌なら、自分の手で、起こさなくしてやれば良いだけの話じゃよ。」
沙枝は、約束を、友を、笑顔を、生命を、思い出していた。全て失っていたと思っていたものを、もう一度取り戻すために。
「わかりました。私も、信じます。
精一杯修練し、自分の手で、自分の力で、新しい未来を掴み取ります。」