七
並べられ、正座させられた十三人が、口を開くことはない。
囲む群衆とは正反対のその空間は、まるで切り取られたかのようだった。
その切り取られ、円く浮かんだ空間に、入ってくる者が三名。皆深く笠を被り、顔は見えない。三人が沙枝達の前に並ぶと、囲む群衆のざわめきが小さくなった。先頭で入ってきた男が口を開く。彼だけ帯刀していなかった。
「今から捕虜十三名の処刑を執行する。この者達我らがクナイへの反抗心強く、もって首をはねるものとする」
決して張り上げてはいないその声は暮れゆく河原に響く。
その時、最後に入ってきた男と目が合った。
時間が止まる。間違いない。夜継だ。
全身に冷や汗が吹き出る。夜継と目が合った時に感じる圧力に、慣れることはなかった。凍りつく沙枝に夜継はまたも嘲笑を浮かべ、目を逸らす。沙枝は自分が息をも止めていたことに気付いた。
口上を述べた男は全体を見渡すように一歩引き、夜継は沙枝の方へ、もう一人はその反対側へ移動した。刀を鞘から抜いた反対側へ移動した男は、大きく振りかぶって構えると確認するように夜継に目を向ける。夜継は微かに頷いた。
シュッと風を切る音。そしてゴトッと重い物が地面に落ちた音。思わず目を背けてしまった沙枝にも容易に想像できた。群衆が沸く。
この音が後十一回続いた。後ろ手に縛られた沙枝には耳を塞ぐことができない。想像を遙かに超える精神的負担。横にいる夜継が満足気な顔をしているのも視界に入らないように、沙枝はずっと目を瞑っていた。夜継の小さな声が耳に届く。
「さて沙枝、お前の番だ。自分の最期くらい、目を開けて迎えたらどうだ?」
言われて目を開ける。途端に声にならない悲鳴が漏れた。山際に僅かを残すのみとなった太陽によって明るさを保つ河原は、まさに地獄絵図。辺りは血の海。隣に正座させられていた男、檻の中で言葉を交わしたその男の成れの果て、虚ろな動くことのない目がこちらを見ていた。夜継の声が届く。
「じきにお前もこうなる。安心しろ、すぐだ」
夜継は見せつけるように正面に立った。沙枝は顔を上げる。せめて最期は夜継を睨めつけながら迎えてやる。夜継も目を逸らさず、言葉もなく刀を振り上げた。
沙枝の首に向かって振り下ろされる刀が、沙枝には視界の端に、とてもゆっくりと見えた。目線はあくまで、夜継から外さない。夜継は口角を上げる。本当に無邪気な、本当に楽しそうな表情をしていた。
遠くの山際に、太陽が完全に、沈んだ。




