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炎花流水  作者: くまくま33233
弐 相対
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 並べられ、正座させられた十三人が、口を開くことはない。

 囲む群衆とは正反対のその空間は、まるで切り取られたかのようだった。

 その切り取られ、まるく浮かんだ空間に、入ってくる者が三名。皆深く笠を被り、顔は見えない。三人が沙枝達の前に並ぶと、囲む群衆のざわめきが小さくなった。先頭で入ってきた男が口を開く。彼だけ帯刀していなかった。


「今から捕虜十三名の処刑を執行する。この者達我らがクナイへの反抗心強く、もって首をはねるものとする」


 決して張り上げてはいないその声は暮れゆく河原に響く。

 その時、最後に入ってきた男と目が合った。


 時間が止まる。間違いない。夜継だ。


 全身に冷や汗が吹き出る。夜継と目が合った時に感じる圧力に、慣れることはなかった。凍りつく沙枝に夜継はまたも嘲笑ちょうしょうを浮かべ、目を逸らす。沙枝は自分が息をも止めていたことに気付いた。

 口上こうじょうを述べた男は全体を見渡すように一歩引き、夜継は沙枝の方へ、もう一人はその反対側へ移動した。刀をさやから抜いた反対側へ移動した男は、大きく振りかぶって構えると確認するように夜継に目を向ける。夜継はかすかにうなずいた。


 シュッと風を切る音。そしてゴトッと重い物が地面に落ちた音。思わず目を背けてしまった沙枝にも容易に想像できた。群衆が沸く。

 この音が後十一回続いた。後ろ手に縛られた沙枝には耳を塞ぐことができない。想像を遙かに超える精神的負担。横にいる夜継が満足気な顔をしているのも視界に入らないように、沙枝はずっと目をつむっていた。夜継の小さな声が耳に届く。


「さて沙枝、お前の番だ。自分の最期くらい、目を開けて迎えたらどうだ?」


 言われて目を開ける。途端に声にならない悲鳴が漏れた。山際やまぎわわずかを残すのみとなった太陽によって明るさを保つ河原は、まさに地獄絵図。辺りは血の海。隣に正座させられていた男、檻の中で言葉を交わしたその男の成れの果て、うつろな動くことのない目がこちらを見ていた。夜継の声が届く。


「じきにお前もこうなる。安心しろ、すぐだ」


 夜継は見せつけるように正面に立った。沙枝は顔を上げる。せめて最期は夜継をにらめつけながら迎えてやる。夜継も目を逸らさず、言葉もなく刀を振り上げた。



 沙枝の首に向かって振り下ろされる刀が、沙枝には視界の端に、とてもゆっくりと見えた。目線はあくまで、夜継から外さない。夜継は口角を上げる。本当に無邪気な、本当に楽しそうな表情をしていた。


 遠くの山際に、太陽が完全に、沈んだ。

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