六
「私達をここまで移送してきたのは誰?他のムラに住んでいた、制圧された人々でしょう。その人達は昼夜関係なくずっと歩かされ、転んでは鞭で打たれていた。これのどこが平和で豊かな暮らしなのよ。言ってることとやってることが滅茶苦茶じゃない!」
「その程度の課せられたことにもまともに応えられないようじゃ、先は知れている。今の生活がきつい?苦しい?はっ。そんなのは言い訳に過ぎない。人としての権利がない?だったら働け!俺はしっかり働いた者にだけ権利を与える。それは当然のことだ。第一お前は民に混じって働いた訳ではないだろう。ただ移送されてきた身だ。本当のことを知らないままに偉そうに語るな!」
沙枝はもう言葉を失った。だめだ。この人には話が通じない。
「どうした。もう言いたいことは終わりか?」
「……貴方とは一生分かり合える気がしないわ」
「ふん。なかなか楽しませてもらったがまだまだだな。どちらにせよ、お前の一生はもうじき終わる。生まれ変わって出直してこい」
予想していた結末ではあったが、やはり顔が青ざめる。そんな沙枝の顔を見て夜継はあざ笑うような表情を浮かべた。
「沙枝。毎日ただ働いて生活している人々には何が必要だと思う?
刺激だよ。刺激。お前は平和で豊かな暮らしを目指す人々の日常に彩りを添える花となるんだ。幸せだろう?」
そう言うと夜継は広場に響く声を上げた。
「ここに居並ぶ十三人、我がクニに対する敵対意識疑いの余地無く、また更正も不可能と所見する!よって全員、日没と共に処刑とする!」
誰も物音一つ立てなかった。夜継は声を落とし、続ける。感情のなくなった目が、沙枝の目を射た。
「そして沙枝。
お前は俺がこの手で最後に首を切ってやる。楽しみにしておけ」
沙枝は夜継の目から視線を逸らすことができなかった。夜継もまた暫くはじっと動かずに沙枝の目を見ていたが、やがてゆっくりと振り向き、建物の中へと入っていった。
退出の時には目隠しされなかった。私達は死刑囚だから。裁きを行った広場の外側には沢山の建物がひしめき合い、豪華な着物を着た女や荷物を一杯に抱えて走り回る少年など様々な人々がいた。皆沙枝達の姿を目にすると顔にしわを寄せて遠ざかっていった。沙枝は早くも傾き始めた陽の光に浮かぶそれらの光景を、どこか遠くから見ているような心地がしていた。とても現実とは思えなかった。自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえた。
川のせせらぎが聞こえる。処刑場所はミヤコの中を流れる川のほとりだった。ここで沙枝達は首を切られ、体は焼かれ、首はミヤコの門外の木に掛けられて朽ちるまで放置されるそうだ。途中そんな説明をされたが、まともに聞いていなかった。いつの間にか周囲には多くの人々が群がる。彼らの足元には長く伸びた影。
日没が、迫っていた。




