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炎花流水  作者: くまくま33233
拾弐 決意
158/159

再開後いきなり更新遅れてすみません。

 急に絞められていた首が解放され、沙枝はその場に崩れ落ちた。呼吸ができるようになり咳き込んでいると、すぐに腕を後ろに回され無理やり立たされる。燥耶は沙枝を救おうと動き出していたが、沙枝がまたも拘束されるとその動きを止めた。沙枝の腕を押さえ付ける夜継の力は強く、体勢が変わった今も沙枝は夜継から逃げ出せる気がしなかった。もがく沙枝を事も無げに抑えながら、夜継は燥耶に声をかける。


「しかし哀れなもんだなあ。《炎花の遣い手》といえば、平原一面を炎の海にするのも簡単だったと伝えられてる。俺だって、そんな力を持った奴には勝てやしない。でもお前はどうだ。あの儀式を経たにも関わらず、お前ができることと言えばその《炎花》に炎を纏わせて戦うくらい。そんなお前が、闇の力を身に付けているこの俺に、勝てるはずがないんだよ。大切なものを何一つ守れないまま、無様に死ね」


 それでも、何を言われようと、燥耶は動くことができなかった。自分が言葉に乗って動けば、沙枝がどうなるか分からない。気持ちを抑えきれなかったせいで沙枝を失う訳には行かないのだ。

 こちらを(にら)み付けたまま動かず、返事も返さない燥耶の様子をつまらなく感じたか、夜継は少し息をつくと今度は沙枝に話しかけてきた。


「おい沙枝。お前は何か言うことないのか。死ぬ前にかけてやりたい言葉とかな。そっちを見ていた方が面白そうだ」


 思わずといった感じで、燥耶が視線をこちらへ向けた。先程までの燃え盛るような瞳ではなく、沙枝を気遣っているかのように僅かに揺れていた。その視線を受けて、沙枝は胸がきゅっと縮むのを感じる。自分がこれから殺されようとしているのに、燥耶は私のことを心配してくれている。何もできない無力な自分が申し訳なかった。それでも、沙枝はその燥耶の瞳を、真っ直ぐに見つめ返す。最後になるかもしれないから。もう二度と、その瞳に光が浮かんでいるところを見ることが叶わなくなるかもしれないから。自分でも気づかぬ間に、沙枝はもがくのをやめていた。二つの視線は正面から交わり、そこに音にはならない多くのものが重なった。

 燥耶が微かに口を動かしたように、沙枝と名前を呼んだように感じた。脳裏に溢れ出るのはこれまでの燥耶との思い出。そのどれもが沙枝の中で輝いていた。この先新たな思い出が足されることがないというのが信じられない。伝えたい気持ちはあれど、なかなか言葉となって出てきてくれなかった。


「燥耶……」


 ようやく喉の奥から発せられた声は、聞き取りにくいほどにかすれていた。

 今言うべきこと。最期に伝えるべきこと。考える。耳の奥でいつかの声がこだまする。


<だから燥耶を見つけたら、ちゃんと伝えるんだ。あなたのことが、大好きです、って>

<沙枝。僕は、沙枝のことが好きだ>


<当たり前だろ。沙枝の隣。それが、俺のいるべき場所だ>


 結局、これしかなかった。




「燥耶。私、燥耶のことが大好き。これまでも、これからも。ずっといつまでも」

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