七
こんばんは。
大変お待たせしてしまいすみませんでした。通常更新を再開致します。
「沙枝!」
燥耶に鋭く名を呼ばれ、はっと物思いから覚める。
「ぼーっとしてたらやられるぞ! 少しでも気を引き締めていてくれ!」
「う、うん!」
そうだった。私たちは今、戦っている最中。目の前の凶悪な敵、夜継に意識を戻す。闇の権化かのように闇そのものを背負いながら、彼は笑っていた。燥耶達二人が逃げ惑うしかないのが、面白くてたまらないようだ。
「どうだ燥耶ぁ! 防ぎ続けるしか手のない今の気分は? このままでは負けると分かりきっているこの瞬間の気持ちを言ってみろよ!」
夜継がそう叫びながら攻撃の手を一時ゆるめる。肩で息をする燥耶。しかし顔を上げ夜継を睨みつけるその瞳には、未だ強い光が宿っていた。
「俺は……、絶対に諦めない!!」
沙枝ですら聞いたことのないような大声でそう返すと、攻撃してこない今がチャンスとばかりに夜継のもとへ駆け出す。
バチィッ!!
夜継の身まであと一歩に迫った燥耶は、見えない壁に弾き返された。
「ぐっ……!!」
勢いを殺しきれず、元居た場所まで吹き飛ばされる燥耶。その顔は、苦痛によるものかわずかに歪んでいた。
「燥耶!!」
起き上がれない様子の燥耶の姿を見て、思わず沙枝は駆け寄る。出血こそほとんどないものの、その身は満身創痍に見えた。
「燥耶、大丈夫……?」
「沙枝っ、それよりも……! 後ろに、気を付けろ……!」
「えっ……? きゃあっ!!」
沙枝は突然我が身が持ち上げられる恐怖に悲鳴を上げた。
「はははっ! おい燥耶、お前のその反応を、俺が予想していなかったとでも? ちょっとは冷静になって考えてみろよ! 俺が自分の身を、完全に無防備で晒すと思うか? だからお前は甘いって言ってるんだよ!」
沙枝は自分のすぐ後ろから発せられるその声を、ただ聞くことしかできなかった。首を押さえられており、声を出すどころか呼吸すら満足にできない。いつの間にか夜継が沙枝の背後へと回ってきており、そのまま沙枝は捕らわれていたのだ。迂闊だった。燥耶を心配に思うあまり、夜継が迫ってきていることに全く気付かなかった。後悔してももう遅く、沙枝は緩みそうにない夜継の腕の中でじたばたと藻掻くしかなかった。
「さあて、これでお前はどうしようもなくなったなあ。沙枝をどうするも、俺にかかってる。どうしてやろうか。すぐに死なせるのも勿体ないかもしれんなぁ」
「くそっ……! 沙枝を離せっ……!」
「おいおい。お前は俺にそんな口をきける立場なのか? ……よし、決めたぞ。お前を先に殺してやる。残るのは戦えない女が一人。さしたる脅威でもあるまい」
燥耶が殺される! そう思った沙枝は今までにも増して精一杯じたばたする。ままならない呼吸に苦しさが大きくなってきていたが、そんなものは気にならなかった。
「沙枝。あんたの顔が絶望に染まるところを見て楽しむとしてやるよ。さあ立て、燥耶!地面に這いつくばったまま、俺に殺されるつもりか!」
《炎花》を支えにして燥耶が立ち上がる。そして夜継を睨みつけた。その瞳の奥に炎が燃え上がっているかのような、激しい視線だった。




