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炎花流水  作者: くまくま33233
拾弐 決意
154/159

遅くなってしまい申し訳ないです。

木曜更新分になります。

 門の前で、男に軽く(にら)まれながらもう一人が帰ってくるのを待つ。沙枝の方は睨んでくるのに、燥耶とは目を合わせようとしないことに気付き鼻で(わら)いそうになる。さっきまでの高圧的な態度を考えたらいい気味だ。ミヤコの喧騒(けんそう)から切り離された場所で、その場にいる三人の間に会話はない。

 沙枝は、もしこれでも中に入ることができなかった時の手順を頭の中で復習していた。緊張を少しでも和らげるためには、何かを常に考えていた方が良かったからだ。といっても、話し合いで入れない以上、取れる策はどうしても暴力的なものになってしまう。《炎花》で門番を脅す、塀を無理やり壊すといった、できればやりたくないような策ばかり。これらを実行する前に中に入れることを、沙枝は切に願った。

 ここまでほとんど喋っていない燥耶の方を見る。その瞳は何を見つめるのか。真っ直ぐ前を向いたまま、ただ静かに(たたず)んでいた。


 かなり長い時間待った。陽のさす角度が急になり、遠くに見えるミヤコの街に歩く人影が多くなる。ずっと静かにしていた沙枝の耳に、門の内側から間隔の短い足音が近付いてくるのが聞こえた。ほどなく、中から息を切らした男が顔を覗かせる。


「通せとのことだ。……ついてこい」


 気取られないように、沙枝はまた心の中で息を吐いた。良かった。これで、夜継の元までたどり着ける。それは同時に、決戦の時が目の前に迫っていることも意味していたが、沙枝はもう考えないことにした。


 一度目、ここを通った時は、目隠しをされていた。処刑されるという噂への不安な気持ちと、何か吹っ切れたかのような、夜継へ言いたいことを言ってやるという決意とを同時に抱えもって。手を拘束されたままで、自由なんてなかったし、希望なんて見えなかった。

 今この場所を歩きながら、あの時と違うのは目隠しと手の拘束が無いだけだと思った。今も、沙枝は不安と決意とを抱いて歩いている。決戦に対する不安と、やるしかないという決意。私たちが失敗すれば、私たちに協力してくれた全てのムラの人々と、咲や幸たち大切なみんなが危険に(さら)される。正直言って、命はないだろう。沢山の人たちの思いと、命と。色々なものをのせて、今私はここを歩いている。失敗は許されない。身が引き締まる思いだった。


 長い距離を歩く。案内する人が二回変わり、いくつもの門をくぐった。沙枝は何も言葉を発することなくただ黙々と歩いていたが、当然、隣の燥耶も口を開くことはなかった。燥耶は。沙枝は考える。今何を考えているのだろうか。燥耶と出会ってから今までの場面が頭の中を流れた。思えばそんなに長くない。せいぜい季節が一巡りした程度。それでも、燥耶との思い出は全てかけがえのないものだった。こんなに濃い時間を、他人と過ごしたことは初めてだ。ここまでの体験をさせてくれるのは、これまでもこれからもも燥耶だけだろうという確信があった。

 だからこそ。これが最後になるかもしれないなんてとても考えられなかった。


「……だから燥耶を見つけたら、ちゃんと伝えるんだ。あなたのことが、大好きです、って」


 いつか言った言葉を、不意に思い出した。

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