三
遅くなりました。火曜更新分です。
夜継の居所の門は当然、固く閉ざされていた。両側には屈強な男が一人ずつ立ち、全く人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。朝早くから動き出しているミヤコの街の喧騒も、その門の前には届いていないようだった。
「……よしっ」
その空気に恐れをなした自分の心を今一度奮い起たせると、沙枝は燥耶と事前に話していた通りそのまま門の前へと向かう。
「止まれ!」
想像通り止められる。声が震えるのを必死にこらえて、沙枝は堂々とした様子に見えるように声を上げた。
「《流水の守り手》、沙枝と申します。夜継様にお伝えしたいことがございますので、開門をお願い致します」
「許可証は?」
「……ございません。急な事ですので、前もってお知らせすることができず……」
「ならば無理だ。ここを通すことはできん」
「そこを何とか。せめて夜継様に私の来訪をお伝えできないでしょうか」
「それもだめだ。そんなことでいちいち、ご多忙な陛下の手を煩わせる訳にはいかん。さあ、帰った帰った」
これでは埒があかない。そう判断した沙枝は打ち合わせ通り第二の手を使う。
「それではこれならどうでしょうか。《流水の守り手》である私は、《炎花の遣い手》である燥耶を連れてきた。これでもまだ、私のことを夜継様に伝えようとしないんですか」
男二人が目に見えて狼狽えた。これで少しは私たちのことを夜継に伝えるという選択肢を考慮してくれるだろうか。
こういう時に《炎花の遣い手》のことに触れる、という案は燥耶が出したものだった。
「もしどうしても門を通してくれなそうだったら、俺が《炎花の遣い手》だということを明かそう」
「ん?どうして?」
「沙枝も前の戦の時に兵たちと話していて感じなかったか? 《炎花の遣い手》の伝説は、ある程度長くミヤコに住んでる人間なら全員知ってるんだ。当然その意味も、その力も。夜継に話が伝わりさえすればきっと中に入れてくれるだろうから、その後押しのためにも俺は名乗りを上げるべきだ」
「そっか。じゃあ、その時は燥耶もよろしくね」
燥耶の予想がまさに的中した形になった。先ほどとは全く違う表情を浮かべお互い顔を見合わせる二人の男。
「し、しかし。ただ言葉で言われただけでは……」
「これでいいか?」
燥耶はこの場で初めて言葉を発したかと思うと、あっという間の早業で剣を抜き放った。その剣こそ、《炎花》。もう陽が昇りきり明るくなった中でも、刀身とそこから揺らめく炎の輝きは眩しいほどだった。
「そっ、それは……!」
そのまま言葉を失う男二人。平静を取り戻すまでに暫くかかった。
「もう一度申します。私たちを夜継様の元へ通して頂けないでしょうか」
「いや、しかし……」
「でしたら夜継様にお知らせを。先程の内容を伝えて頂ければ、必ず夜継様も関心を持って下さるでしょう。いらぬ邪魔をしたとあなた方が罰せられることもないと思いますが」
「……。いいだろう。そこで暫く待っていろ」
二人の内一人が門の中に入っていくのを見ながら、沙枝は心の中で大きく息を吐いた。




