一
「報告します!」
伝令が駆け込んできたのは、夜継が朝食を食べ終わり一息ついていた時だった。
これからの職務との狭間の、ほっとできる時間。気に入っているこの時間を邪魔されたことに若干の怒りを覚えながらも、それを抑えて夜継はその若い伝令の方へ顔を向けた。
「何事だ」
「街道にて、武装集団の目撃情報多数! どうやら複数のムラが一斉に蜂起した模様です!」
「……また無駄なことを。ムラの二つや三つ、軍の前には何も出来ないことは見えているだろうに」
「それが……二つや三つどころの騒ぎではないようで……」
「だとしても、俺が直接出向くようなことでは」
「陛下」
伝令と夜継のやり取りを遮ったのは、側仕えの声だった。自分の発言の最中に声を掛けられたことで更に苛立ちを募らせた夜継は、今度は自分の感情を隠すことなく問い返す。
「……なんだ?」
「ただいま門前に、沙枝と名乗る巫女装束の少女が来ておりまして。《炎花の遣い手》を連れてきた、陛下に会わせろと只事ではない様子で言い張っているのですが……」
夜継の口元に、にやりと笑みが浮かぶ。機嫌が悪かったのは、もう忘れた。
「丁度良いじゃないか。あいつに行かせよう。ここまで通せ」
「は、え?」
「聞こえなかったのか、ここまで通せと言ったんだ」
「しょ、承知致しました」
「ああ、あとお前」
口元に笑みを浮かべたまま、もう一度夜継は伝令の方を向く。若いその伝令は、全身に震えが走ったのを感じた。
「しばらくここにいろ。もうすぐ来る二人組に、何があったのか説明してやれ。俺から言うのは面倒だからな」
「はっ!」
夜継のその邪悪な笑みを見ることのないよう、彼は深く頭を下げた。
そこから少し遡って。
「おじゃまします」
まだ日も昇らず暗い中、響夜がこっそりと社にやってきた。燥耶の祖父母を初めとした家族、それから幸とその母、咲の母も一緒だ。咲の母はずっと家に帰っていないという話だったが、響夜がなんとかしてくれていたようだ。咲はぐったりとした様子で、響夜に背負われていた。
「良かった。みんな来れたんだね」
「ああ。約束通り、みんな連れてきたよ」
「響夜、こちらがこの社の長、大母巫女様だよ」
「よう来た。一日窮屈な生活を強いることになるが、許してくれ」
「いえいえそんな。置いていただけるだけでありがたいですよ」
「では、明るくなる前に。こっちじゃよ」
大母巫女が皆を引き連れ、避難する地下室へと向かう。響夜だけがその場に残った。ゆっくりとこちらへ向く。口を開きかけてはまた閉じ、を何度か繰り返すも、意味のある言葉は発せられない。大分長い時間をかけて、結局。
「……二人とも、気を付けて」
力を振り絞るようにそれだけ言うと、こちらに背を向けて駆けていった。
その響夜の様子に、残された燥耶と沙枝の間にもしばらく沈黙が揺蕩う。二人とも響夜に、最後に言いたいことがあったはずなのに。
……これが、最後になってしまうかもしれないのに。
小さくなっていく背中を、二人ただ黙って見送った。




