五
「ほう。聞こうじゃないか。言ってみろ」
「陛下!」
「よい。お前は下がっていろ。なかなか楽しめそうだ」
夜継の目の奥にはやはり興味深そうな光が躍る。口元に歪んだ笑みをたたえた。
「どうして私達のムラを攻撃し、焼き払いさえしたの」
「はっ…なんだそんなことか。お前、名前は?」
「……沙枝」
「沙枝。俺はな、人々の暮らしを平和で豊かにしたいだけなんだ。そのためには手段など選ばない」
「何それ。意味が分からないわ。私達はいままでだって平和に豊かに暮らしてきた。ぶち壊したのはそっちじゃない!」
「では逆に聞くが、ここまで護送される道のりの中でお前はどう思った。お前のムラは、本当の意味で、豊かだったか?」
「それは……」
沙枝は返答に詰まる。広い道、大きな建物、沢山の人。それは確かにもとの暮らしには無いものだった。
「それは……、それはまた別の話でしょう!貴方の価値観を押しつけられるなんてたまったものじゃないわ。第一、私達のムラを焼き払いまでした理由にはなってないじゃない!」
「それはお前達が抵抗したからだ。先程から言っているだろう?俺は全ての人々が平和で豊かに暮らせるようになることを目標としている。そこに抵抗するものはこのクニ全体にとっての敵だ」
「じゃあ何?ムラに我が物顔で入ってくる大勢のよそ者達を何もせずただ見ていろと?もしそうだったらあなたはどうするつもりだったのよ!」
「そうだな。そうであったならば話は早かったのに。うん、まずほとんどの家を壊す」
は?
「開発に邪魔だからな。そして大きな街道と、上質な灌漑設備をつくってもらおう。今までの田畑は一度ならして……って、お前達のとこにはまともな田畑なんて無いか。森をだいぶ伐り開かないといかんな。もちろん全てお前達が働いてつくるんだぞ。これはお前達のことを考えてやってんだからな」
「そ……そのことを私は言ってるのよ!私達は今までだって豊かに暮らしてきたって言ったじゃない!ムラをこれからどうしてゆくのかは貴方に決められることじゃないわ。私達自身が決めることよ!」
「はぁー……。これだから未来が見えてない奴は困る。良いか沙枝、お前はせいぜい次の春が巡ってくるくらいの先の話までしか見えていない。今すべき苦労は、もっと先の未来を見据えた苦労だ。そもそも俺は、お前達を含む皆に知識と技術を渡そうとしている。これ以上何を望むと?」
「なら私達は、クナイに吸収された多くの氏族達は、あなたにむしろ感謝するべきだと。だから黙って働けと。そういうこと?」
「そのつもりだが」
「貴方が黙りなさいよ!」
沙枝は夜継に自分の思いをぶちまければぶちまけるほど、反対に怒りが溜まっていっていた。




