八
お待たせして大変申し訳ありませんでした。
ここまで追いつけなかった分の更新は全てお休みの扱いとさせて頂きます。
次回更新は23日(土)です。
「なあ、沙枝」
燥耶と二人、社まで戻る。燥耶にこんな気軽な感じで声を掛けられるのも久し振りだ。いや、本当は大して長く経っていないのだが、色々ありすぎたせいで実際よりも長く感じてしまっていた。
「……なに?」
だからこそ、燥耶の声音が戻っているとはいえ、沙枝の返事が少し警戒するようなものになってしまったのは仕方のないことだろう。
「……いやさ、その……、悪かった」
「へ?」
驚いた。急に謝られるとは思っていなかった。
「うーん、だから、色々と変な態度取っちゃったなって。沙枝に。考えさせてくれって、何様だって感じだし。沙枝が横にいるのに」
「……うん。それで?」
「里にも怒られたよ。そんなんじゃあかん、ってさ。それで思ったんだ。もう一度ちゃんと、沙枝と話そうって」
「……そっか」
里にまで言われていたのは意外だった。後でありがとうって言っとかなくちゃ。
「それで、さ。何でこうなったかっていうことだけど」
そう。それが最も気になることである。響夜との間が気まずくなってしまったのは分かる。しかし燥耶との間には何も心当たりが……。そこまで考えて沙枝ははっとする。まさか。
燥耶は躊躇いながらこう続けた。
「……沙枝、響夜に言われたろ。伝えたいことがある、って」
頭が真っ白になる。聞かれていたなんて、思いもしなかった。と同時に、どこか腑に落ちた自分もいた。燥耶がおかしくなった時点は確かに、あの響夜の告白と一致する。
「……うん」
互いに、目を逸らしていた。顔を向けるのが、なんとなく怖い。その中で沙枝は思い出す。待てよ。燥耶はどこまで聞いてたんだろう?……まさか、その後も?
「……ねえ燥耶」
「ど、どうした?」
「……それ、どこまで聞いてた……?」
自分の心臓が刻む鼓動が、やけに大きく聞こえた。燥耶が言葉を返すまでが、長く感じる。
「……実は、そこまでしか聞いてない。伝えなくちゃ、ってとこ。それ以上は……耐えられなかったんだよ」
「……そっか」
内心でほっとため息をつく。そうか。燥耶は肝心な所を聞いていないからこそ、余計に変だったのか。
「ごめんなさい、って言ったよ」
「……え?」
沙枝はあくまで軽く、あの時のことを言ってしまうことにした。
「その後響夜に、沙枝のことが好きだ、って言われたから。ごめんなさい、って返した。燥耶が聞いてないのは、それだけだよ」
「……そうか。そうなのか。……なんだ……」
勿論、一番大事な所は伏せて。燥耶はというと、安堵しているようだった。相変わらず表情は乏しいが、今の沙枝には手に取るように分かった。
「だから、燥耶が気にすることないんだよ。ね?」
「……そうだ、な。うん。……すまんな」
「いいんだよ、気にしてない。私も燥耶と同じような立場だったら、燥耶に何言ったか分かんないもん。お互い様だよ」
その後は二人、話をしながら社まで戻った。燥耶は未だ気まずいのか、以前より口数が少なめではあったが。そんなの関係なく、沙枝は燥耶と話せて楽しかった。気にしなくていいのに。それと同じことを、響夜も思っていたんだなとやっと理解できた。




