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炎花流水  作者: くまくま33233
拾壱 覚悟
142/159

大変遅くなってしまい申し訳ないです!

土曜日更新分です。

「じゃあね、沙枝。また明日」


 不自然に長く三人の間に揺蕩(たゆた)った沈黙は、響夜のこの声によって破られた。さっきに続いて、明るい声だった。


「……うん。また明日」


 燥耶は何も言わず、背を向け社の方へ歩き始める。沙枝もそれ以上続けることができず、急いで燥耶の後を追いかけた。駆け足でもなかなか追い付けないほど、燥耶の歩みは速かった。







「……はは」


 ここにまた一人、乾いた笑いをもらす者がいた。自分でも気付かないままに、血が滲むほど強く拳を握りしめて。その手を頭上に振りかぶって。力なく下ろした。


「……分かってたはずだよな、僕」


 沙枝の気持ちには気付いていた。この告白がまさしく自分のわがままそのものであり、自己満足に過ぎないことも、受け入れられるはずがないことも、十分に理解していたはずだった。


「なのに、なんで」


 こんなにも胸が苦しいのだろう。気を張っていないと、涙がこぼれ落ちそうになっているのだろう。


「こんなんじゃ……」


 そう。こんなのでは。


「気持ちを伝えて良かったって、思えないじゃないか……」


 後悔しないと決めたのに、今まさに後悔に呑み込まれそうになっている。

 すぐ後ろで、門が開く音がした。


「きょ、響夜様!お帰りなさいませ。先程若様がいらして、沙枝様が……」

「沙枝なら今帰っていったよ。燥耶と一緒に」

「左様でございますか!よかった……」

「春則」

「何でございましょう」

「しばらく、一人にしてくれないかな。僕が入る時に戸締りもしておくから、鍵も開けておいて。もう遅いし、春則は寝るといいよ」

「響夜、様……?何か、あったので……?」

「春則」

「……かしこまりました」


 ゆっくりと戸が閉まる。(こら)えきれなかった涙が一滴、路に跡を残した。






「燥耶!待ってよ、燥耶!」


 駆け足で追い(すが)っても、全然追い付くことができない。後ろを振り返ることなくずんずんと進んで行ってしまう燥耶は、何かから逃げ出そうとしているようだった。


「私疲れたよ、待って燥耶。ねえ、どうしたの?」


 ここで燥耶は急に立ち止まる。必死にその背中を追いかけていた沙枝は、ぶつかりそうになってしまった。


「今日、どうしてこんなに遅かったんだ?」

「咲が病気になってたの。今日は一日中看病してた。ごめんね、燥耶。心配かけちゃったよね」

「……ああ。それで?」

「……え?」

「……その他には、何かなかったのか?」

「……うん」


 燥耶はこちらに背中を向けたままのため、表情を窺うことはできない。こちらを見ようとしないまま、燥耶は何か考えているようだった。


「……なら、いい」


 長いこと考えた後にそう言うと、燥耶はもう一度歩き始めた。沙枝も慌てて後を追うが、さっきとは全く違う燥耶の歩調に、すぐに追い付いてしまう。


「ねえ、燥耶」

「悪い、沙枝」


 沙枝の呼び掛けは、燥耶に即時に遮られた。


「しばらく、話しかけないでくれるか。ゆっくり考えたい」

「燥耶……」


 門の前で会ってから、初めて燥耶の表情を見ることができた。口を固く引き結び、真っ直ぐ前を見つめるその表情に、沙枝は思わず言葉を失った。

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