四
かなりの時間歩いたような気もするし、あっと言う間だった気もする。沙枝は男の「止まれ」という声を聞いた。
「右を向いて正座しろ。今すぐにだ」
そんなことしてやるものかと思った沙枝だったが、すぐに誰かから半ば無理矢理に押さえつけられた。すぐそばで大きな声が上がる。
「陛下!シノミ族のムラでの戦闘にて捕縛したものたちを連行してきました」
「ご苦労。…ふむ、目隠しを外せ」
周りにいた男達が十三人の目隠しを外していく。沙枝も目隠しを外された。外の眩しさに顔をしかめる。
そこは垣のようなもので囲まれた広大な空間だった。地面には白い石が敷き詰められており、沙枝達の目の前にはこれまた今までに見たこともないような大きな建物が建っていた。その建物は一段高いところに建っており、正面には階段がある。その階段の上、建物の庇によって日陰になった部分に豪奢な椅子が置かれ、そこには一人の男が座っていた。年は…意外と若い。しわも白髪も見当たらなかった。
「このまま死にゆくお前達に伝えるのは無意味かもしれんが……。礼儀として挨拶しよう。
私がこのクニ、クナイの王。夜継だ」
そう名乗った夜継は十三人の捕虜一人一人の目を見ていく。さして興味もなさそうに視線を移動させていったが、ふと最後の一人で目が止まる。
「ほぅ……」
思わず声が漏れる。若い女がくるとは思っていなかった。
沙枝は夜継と目が合った瞬間、身動きが取れなくなっていた。今まで話したことのある大人には感じたことのない、圧力と暴虐さを視線から感じた。夜継の背後に大きな闇が広がっているように沙枝には見え、言ってやろうと思っていた言葉を喉から発することができなくなっていた。
これが、クナイの王。どこか腑に落ちたような気もした。
夜継は沙枝から視線を逸らさぬまま立ち上がって階段を下り、目の前までやってくると、沙枝のあごを掴んだ。
「お前は……女だな?何故ここにいる?」
その問いに横に控えていた男が答える。
「陛下。その者も戦いの場にての投網により捕らえられた者です。抵抗をしていたという事実は疑いようが……」
「そんなことはどうでもいいでしょう!?」
沙枝は叫んでいた。気がついた時には止まらなかった。思ったよりも大きくなってしまったその声は白い広場に響く。
夜継も少し驚いた顔をしていたが、目の奥で興味深そうな光が踊った。
「貴様!」
横で陛下に答えていた男が激怒し、鞭を取り出し振りかぶる。その男を夜継は視線を送って止めた。
「ほぅ……。そんなこと、とな?」
「だから、私がどうして戦いの場にいたのかなんてどうでもいいでしょう?」
「貴様、陛下に何たる口の利き方を……」
「こうなった以上全部ぶちまけてやるわ。あなたに言いたかったこと、聞きたかったこと全てね!」




