二十一
お待たせしました。木曜更新分です。
なお本日更新は通常通りの予定です。一日二回の更新となってしまいますがご理解ください。
「なあ、沙枝」
響夜と二人燥耶の家に帰る途中、響夜がそう声を掛けてきた。咲の看病に夢中になっている間に、空はすっかり真っ暗になっている。ただ表通りに戻ってきていたため、暗くなっても活気が損なわれることはない。むしろ、街にはまだまだこれからだという雰囲気が漂っていた。
「明日も、咲の看病に行くんだよね?」
「うん。そのつもり。大変だし、明日からは一人で行くよ」
「それはだめだよ。その……、一人じゃ危ないし」
「でも、迷惑じゃない……?」
「大丈夫だから。僕も絶対一緒に行く」
「……。そっか。そんなに言うなら一緒に行こうね」
「良かった」
沙枝はそんなに響夜が必死になる理由を聞きたかったが、何となく黙った。
「それで、さ。沙枝」
「なあに?」
「……。あ、燥耶にこんなに遅くなるって言ってある?燥耶、心配してないかな?」
「あー!忘れてた!どうしよう、燥耶絶対心配してるよね……」
「だよねえ。逆の立場だったらすごく心配になるの間違いないもんね。燥耶の家に戻ったら燥耶いたりして」
「うーん……、私、燥耶に沢山怒られそう……」
「ははは。大丈夫、僕にも責任はあるし、僕も一緒に燥耶に怒られるよ」
「それは……心強い、のかな?」
「それで、さ、沙枝」
「?」
「……何でもない。咲、早く元気になるといいね」
「……うん」
何となく会話が不自然になってしまう。朝はそんなことなかったのに、今の響夜は変だ。
「ねえきょう……」
「あ、ここを右だね」
間が悪い。声を掛けそびれた自分を呪った。
「なあ、沙枝」
燥耶の家に近付いてきて周囲に人気がなくなった頃、響夜がもう一度そう声を掛けてきた。さっきと同じ切り出し。やっぱり今の響夜は不自然だ。
「なあに?」
抱いている違和感をなるべく悟られないように何気なく返事する。
「……」
「どうしたの?」
なかなか響夜は後を続けようとしない。俯く顔を覗き込むとすごい勢いで逸らされた。暗くてよく見えなかったが、頬が赤く色付いていた気がする。
「……ぼ、僕、沙枝に言わなきゃいけないことがあるんだ」
「……それって?」
「それは……」
響夜はそこで一呼吸置いた。何も言われずとも、これが大事な話であることは分かった。
「沙枝はこれから、危険に立ち向かっていく訳だろう?」
「うん。そう、なるね」
「すると、大けがをしたりするかもしれない」
「想像したくはないけど、そうなるかもしれないね」
「僕、今日の沙枝の様子を見ていて思ったんだ。正確には、横たわる咲と、その側について看病する沙枝の姿を見て、かな」
「……?」
「沙枝が目の前に横たわるのをただ僕が見つめるだけ、そういう未来が来てしまってもおかしくないんだな、って」
沙枝は驚いた。よりによってその言葉が、響夜から出たことに。
「それは……。そりゃ、そうかもしれないけど……」
「だから」
響夜が顔を上げ、こちらを真っ直ぐに見た。いつ自分が、そして響夜が立ち止まっていたのか思い出せない。足音さえ途絶えた暗い道の真ん中で、二つの瞳は強い意志を持って沙枝を射抜いていた。
「僕は、今、沙枝に伝えておかなくちゃいけないことがあるんだ」




