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炎花流水  作者: くまくま33233
拾 前夜
136/159

二十一

お待たせしました。木曜更新分です。

なお本日更新は通常通りの予定です。一日二回の更新となってしまいますがご理解ください。

「なあ、沙枝」


 響夜と二人燥耶の家に帰る途中、響夜がそう声を掛けてきた。咲の看病に夢中になっている間に、空はすっかり真っ暗になっている。ただ表通りに戻ってきていたため、暗くなっても活気が損なわれることはない。むしろ、街にはまだまだこれからだという雰囲気が漂っていた。


「明日も、咲の看病に行くんだよね?」

「うん。そのつもり。大変だし、明日からは一人で行くよ」

「それはだめだよ。その……、一人じゃ危ないし」

「でも、迷惑じゃない……?」

「大丈夫だから。僕も絶対一緒に行く」

「……。そっか。そんなに言うなら一緒に行こうね」

「良かった」


 沙枝はそんなに響夜が必死になる理由を聞きたかったが、何となく黙った。


「それで、さ。沙枝」

「なあに?」

「……。あ、燥耶にこんなに遅くなるって言ってある?燥耶、心配してないかな?」

「あー!忘れてた!どうしよう、燥耶絶対心配してるよね……」

「だよねえ。逆の立場だったらすごく心配になるの間違いないもんね。燥耶の家に戻ったら燥耶いたりして」

「うーん……、私、燥耶に沢山怒られそう……」

「ははは。大丈夫、僕にも責任はあるし、僕も一緒に燥耶に怒られるよ」

「それは……心強い、のかな?」

「それで、さ、沙枝」

「?」

「……何でもない。咲、早く元気になるといいね」

「……うん」


 何となく会話が不自然になってしまう。朝はそんなことなかったのに、今の響夜は変だ。


「ねえきょう……」

「あ、ここを右だね」


 間が悪い。声を掛けそびれた自分を呪った。





「なあ、沙枝」


 燥耶の家に近付いてきて周囲に人気がなくなった頃、響夜がもう一度そう声を掛けてきた。さっきと同じ切り出し。やっぱり今の響夜は不自然だ。


「なあに?」


 抱いている違和感をなるべく悟られないように何気なく返事する。


「……」

「どうしたの?」


 なかなか響夜は後を続けようとしない。俯く顔を覗き込むとすごい勢いで逸らされた。暗くてよく見えなかったが、頬が赤く色付いていた気がする。


「……ぼ、僕、沙枝に言わなきゃいけないことがあるんだ」

「……それって?」

「それは……」


 響夜はそこで一呼吸置いた。何も言われずとも、これが大事な話であることは分かった。


「沙枝はこれから、危険に立ち向かっていく訳だろう?」

「うん。そう、なるね」

「すると、大けがをしたりするかもしれない」

「想像したくはないけど、そうなるかもしれないね」

「僕、今日の沙枝の様子を見ていて思ったんだ。正確には、横たわる咲と、その側について看病する沙枝の姿を見て、かな」

「……?」

「沙枝が目の前に横たわるのをただ僕が見つめるだけ、そういう未来が来てしまってもおかしくないんだな、って」


 沙枝は驚いた。よりによってその言葉が、響夜から出たことに。


「それは……。そりゃ、そうかもしれないけど……」

「だから」


 響夜が顔を上げ、こちらを真っ直ぐに見た。いつ自分が、そして響夜が立ち止まっていたのか思い出せない。足音さえ途絶えた暗い道の真ん中で、二つの瞳は強い意志を持って沙枝を射抜いていた。




「僕は、今、沙枝に伝えておかなくちゃいけないことがあるんだ」

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