二十
お待たせしました。
火曜日更新分です。
なお本日の更新も遅れます。
ここのところずれ込む形で遅れてばかりですみません。なんとか修正できるように努力しますので、よろしくお願いします。
苦しそうにする咲。そのそばに、沙枝はずっとついていた。時折額の布を取り替え、汗を拭ってやる。何もすることがなくとも、そばにいてその顔を見つめながら手を握っていた。そうすれば、咲がどこにも行かない気がしたから。自分に出来ることはすべてやる。またあの元気一杯の咲に会うために、全力を尽くしていた。
その様子を近くで、響夜はずっと見ていた。沙枝が必死に看病をしている、その後姿を。そして、考えてしまうのだ。横たわっているのが自分であったとしても、沙枝はこんな風に必死になってくれただろうか、と。勿論、これを沙枝に直接聞く訳にはいかない。というか、自分でも分かっているのだ。こんなの、心配するまでもない。沙枝は優しい。倒れたのが自分だったとしても、しっかりと看病してくれただろう。それでもこんなことを考えてしまうのは、単に沙枝の気持ちを知りたいからに他ならない。そこまで含めて、響夜は理解していた。
先程汲んできた水が少なくなってきたようだ。何も言わず、響夜はまた外へ出た。水を汲み、戻ってきた響夜に、室内の様子が目に入る。当然、出る前と大きく変わった訳ではない。横たわる咲と、側に座る沙枝。さっきも見たその光景をもう一度目にした時、響夜の中に衝撃が走った。
そう遠くない未来、沙枝が自分の前に横たわる構図が出来てしまうかもしれない。その事に、今更ながらに気付いたから。
危険に立ち向かう沙枝を、止めるつもりはもうない。沙枝のことを思うからこそ、沙枝の邪魔はしない、自分の出来る範囲で全力で手伝うと決めていた。それでも、沙枝が危険に飛び込んで行くことには変わりない。この昼が、沙枝と言葉を交わす最後の機会になる可能性は、絶対に0にはならないのだ。むしろ、その可能性の方が高いのかもしれない。このまま何も沙枝に話すことなく、全て己の心の中に秘めたまま、もう一度沙枝と対面したとき、その身体が、物言わぬものであったなら。響夜は正気を保っていられる自信がなかった。
押し付けかもしれない。迷惑かもしれない。それでも。響夜は決心した。
「ただいま!沙枝、咲どう?」
幸が帰ってきて声を掛ける。その声で、沙枝ははっと我に返った感じだった。咲のために必死に看病をし、咲が食べられるような料理を作り、暗くなったら自分が分かる範囲で弱く明かりを灯した。全て夢中でやっていて、時間の経過が頭から飛んでいたのだ。
「お帰り、幸。お仕事お疲れ様。咲、今また寝たとこだよ」
「あ、そっか。じゃあ、あんまりうるさくしない方が良かったね……」
「大丈夫。ぐっすり寝てるよ」
「良かった。……なんか、朝よりは落ち着いたように見えるよ。ありがとね、沙枝」
「ううん。こんなことしか出来なくてごめんね」
「いやいや、本当にありがとう。響夜さんも」
「僕こそ、何もしてないから。全部沙枝がやったことだよ」
「ねえ幸、明日も来ていい?」
「そりゃ来てくれるならすごく助かるし、嬉しいけど……。大丈夫なの?」
「大丈夫。朝も言ったけど、私にとって二人が元気でいてくれることは何より大事だから」
「ありがと。じゃあ、また明日ね」
「うん。幸も身体壊さないように、早く寝てね。帰ろっか、響夜」
響夜と二人で帰路につく。幸が手を振ってくれたのに笑顔で振り返すも、咲が元気になった訳ではなく、すっきりしない気持ちの沙枝だった。




