十二
お久しぶりです。
がらがらっ、ばんっ!
建物ごと崩れそうな勢いで沙枝と燥耶の部屋の扉が開いた。
「沙枝っっっ!!」
大きな声とともに、懐かしい姿は沙枝の胸元に飛び込んできた。そこまであまりにあっという間だったので、沙枝はちゃんと受け止めきることができない。
「ちょっ、里!?た、たおれ…!」
「おわわっ!?あかん!」
「よっと。」
思わず目を瞑ってしまった沙枝だったが、身構えていた衝撃は待てどもやってこない。恐る恐る目を開けると、すぐ前に燥耶の顔が。自分が燥耶に抱きかかえられていると理解するのに、しばらくかかった。
「大丈夫か?沙枝。」
「…う、うん。ありがと…。」
「ひゅー、お二人さん。熱いもんやな!」
この状況をつくった張本人である里がにやにやしながらそう言ってきた。顔が真っ赤なことは自覚していたが、言い返さずにはいられない。
「もう、里!危ないよ。誰のせいでこうなったと思ってるの?」
「ごめんって。沙枝が帰ってきたって聞いて、居ても立っても居られんようになってもたんや。それでここまで走ってきて、そのままの勢いで…。」
「だからって…。」
「まあまあ沙枝。里はそれだけ嬉しかったってことじゃないか。」
「うん…。まあそうなんだけどさ…。」
「それより、お互い挨拶もしてないぞ。」
「あ…。そうだね。…改めて。ただいま、里。」
「俺からも。久しぶりだな、里。」
二人を見つめる里は、心なしか涙ぐんでいるようだった。
「うん!お帰り、二人とも!また会えて、めっちゃ嬉しいわ。」
里はそう言うと、燥耶と沙枝の二人をまとめて抱きしめた。沙枝は、自分の目にも涙が滲むのを止められなかった。
「そしたら、またしばらくここで暮らすん?」
少し落ち着いたところで、里がそう聞いてきた。
「うん、そう…なるかな。」
「…なんか隠してることあるやろ。」
「そう、だね。でも、里には言えないんだ。ごめんね。」
「そっか。…なんか力になれることないんかな?」
「そのためには、私たちがやろうとしてることを話さなきゃいけなくなる。このことの内容は大母巫女様にも言ってないの。気持ちは嬉しいんだけど…。」
「ええって。大母巫女様にも言ってないことを、私が無理に聞き出す訳いかへんしな。でもそうか。なんかやろうとしてるってことは確かなんやな。」
里の顔を一瞬、寂しい表情がよぎる。沙枝は声を出すことなく、静かに頷いた。
「そっかー。また行ってまうねんな…。」
「全部終わったら、また戻ってくるって。」
「ほんまに?ほんまに、絶対、元気に帰ってこれるって言える?」
「それは…。」
「な。すぐに言われへんやろ。私な、心配やねん。燥耶さんのことも、沙枝のことも。今までだって、めっちゃ心配しててんから。今沙枝は何してんのかな、怪我とかしてへんかな、って。」
「里…。」
「せやから。二人には無理してほしくないし、いつまでも元気でおってほしい。」
「…うん。ありがと。それが聞けただけでも、私嬉しいよ。」
「…気ぃ付けてな。…ここにおる間は、一杯話そうや。」
「うん!」
沙枝は笑顔で頷いた。




