九
遅れてすみませんでした。
昨日は最後の最後で寝落ちしてしまいまして、更新が今日にずれこむ形になってしまいました。
どうも上の空な燥耶と二人、ミヤコの街中を歩く。沙枝から見て、ミヤコの風景は何も変わっていないように感じた。沙枝たちが何をしようとしているのか知らない訳であるから当然なのだが。それでも、前と変わらず賑やか過ぎる道を通り抜けながら、自分との壁のようなものを感じずにはいられなかった。今自分たちが背負っているものは、この道を通っているどの人よりも重いだろう。
「何も変わっていないな。」
燥耶がいつの間にかこちらに帰ってきていたようだ。眼差しに確かな意思を感じる。
「そうだね。」
「ここを行き来する人たちは、皆幸せそうだ。…俺たちが行動を起こせば、きっとこの人たちも少なからず混乱に巻き込まれる…。」
はっとした。燥耶の言う通りだ。当たり前のことなのに、当たり前すぎて気付いていなかった。急に不安になり、思わず燥耶の顔を見上げる。
「でもな、沙枝。」
燥耶は沙枝の顔を覗き込み、こう続けた。
「俺は、正しいことをしてると信じてる。信じて、前に進み続ける。だから沙枝、不安になるなら、前に進むこの俺のことを、信じてくれないか。」
「………うん!」
すぐには言葉が返せなくなるくらい、格好良かった。
社が近付いてくるにつれ、なんだか落ち着かない気持ちになる沙枝。帰ってこられて嬉しいのだが、久しぶりのためどんな顔をしていればよいのか分からない。わくわくするのと、そわそわするのと。ふと気付くと、自然と笑顔になっているような。色々とない交ぜになった感情は、自分でもしっかりとつかむことが出来なかった。
「久しぶりだな。社。」
「そだね。」
「さっきから楽しそうだぞ、沙枝。戻ってこられたのが嬉しいのか?」
「うん。里とか、元気かなあって気になっちゃう。」
「そうだな。俺も、無事に戻ってこられて嬉しいよ。」
「燥耶も?」
「ああ。ここには俺の思い出が詰まってる。あの儀式の日から急激に運命が動いた俺の中で、記憶の大半がここでのことで占められているんだ。戻ってこられて嬉しいに決まってるさ。」
「そっか。…ここに来ることがなかったら、燥耶とも会うことはなかったんだよね。」
「それは違うぞ、沙枝。」
「…え?」
「俺たち二人は、神に定められし宿命で結ばれてる。たとえここで出会わなかったとしても、いつかどこかで必ず、お互いを見つけていたはずさ。」
「…ありがと、燥耶。」
「…うん、なんか恥ずかしいな。」
「あはは、照れないでよ。すごくかっこよかったのに。こっちまで恥ずかしくなっちゃう。」
自分の顔が赤くなっていることを感じながら、それでも燥耶の顔を見上げる。見逃してしまいそうに僅か、燥耶の頬も赤く色づいているのが見えた。
そんなことを言いながら歩いていると、いつの間にか社の屋根が前方に見えてくる。必ずもう一度帰ってくると誓った社に、今戻ってきた。それでも不思議と、涙は出ない。今はまだその時ではないと、頭で理解しているからだ。涙は全て終わった時まで取っておこう。そう自然と思った。




