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炎花流水  作者: くまくま33233
拾 前夜
120/159

遅くなりましてすみません。


昨日更新分です。

 更馬はしばらく無言のまま、燥耶の目を見つめる。しっかりと自分を見つめ返す燥耶の双眸(そうぼう)から、何かを読み取ろうとしているようだった。


「…いいだろう。これ以上私は何も言わん。必ず、帰ってこい。」


 燥耶も無言のまま、深く、深く、頭を下げた。


「春則。」

「はい、更馬様。」

「響夜さんを部屋に案内してやってくれ。前回と同じように燥耶の部屋でいいだろう。ああ、二人も一緒に行くといい。」


 今度は三人揃って、深くお辞儀をする。何も言わなくても揃ったし、何も言わなくても伝わった気がした。






「響夜様、それに、若様も。」

「はい?」

「どうした、春則?」


 燥耶の部屋に向かう途中、春則は真剣な顔で二人に話し掛けた。


「お二人ともに持つ、特別な気持ちに、お二人は、そしてその人は、気付いておられるのでしょうか。」


 思ってもみなかったところから突っ込まれた質問。この時春則の目は、三人の青年の前を歩く、一人の少女に、向けられていた。二人は思わず、一瞬足を止めてしまう。

 燥耶は少し春則を疑った。もしかして、こいつもか、と。しかしすぐにそれを打ち消す。春則が沙枝を見る視線には、燥耶と響夜の二人とは違い、沙枝を心配する純粋な気持ちしか見当たらない。春則の性格から言って、これからの沙枝の立場をただ心配しているだけなのだろう。

 そこまですぐに考えて納得し安心してから、今度は響夜の様子を伺う。すると、恐る恐るといったようにこちらに顔を向けた響夜と目が合った。視線が語り掛けてくる。響夜の心の迷いが手に取るように分かった。こういう時はまがりなりにも春則の主人たる俺が先陣を切るべきだ。そう思って、何も言うべきことが見つからないまま口を開こうとするも。


「私が言うことじゃないのかもしれませんし、自分でも偉そうだなあって思うんですが。」


 春則に先を越されていた。


「気持ちの押し付けはやめてあげた方がいいと思います。選択の強制も。図らずも巻き込まれてしまった人の気持ちを考えることができる人、相手の立場も含めて考えられる人が、最終的に幸せを掴める人なんじゃないでしょうか。」


 その言葉は二人の心に深く刺さった。この中で一番年上である春則の、大人の一面。


「ん?どしたの?」


 後ろの異様な空気を察知したのか、沙枝が振り返る。


「何でもないですよ、沙枝様。」

「…そうですか?」

「ええ。それより沙枝様、お一人で若様をお捜しに行かれたんですか?」

「まあ、そうですね。私のせいみたいなものでしたし、何より燥耶以外には私にしか《炎花》を扱うことができませんから。」

「…ん?《炎花》を扱えることが、どうして若様を捜すことに繋がるんですか?」

「あ、そこから説明しないといけなかったですね。まず、《炎花》には自我が宿っていて、…」


 何もなかったかのように振る舞う春則を、改めて尊敬する燥耶。そういえばいつも、何でも俺のことはお見通しだった。関係もないのに、過去のことを色々と思い出してしまい、燥耶は思わず苦笑した。

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